「完全に負け戦」EU離脱後の英国が進む茨の道
ロンドンは世界の金融センターとして確固たる地位を築いてきた。ただ離脱後も「機能そのものは若干弱まるだろうが、金融センターとしての地位が崩れることはないだろう」とみる。大陸側の欧州は金融センターをつくれていないからだ。 土田氏によると、それを担うことが期待されたドイツ・フランクフルトは街のキャパシティが小さい。フランス・パリは街の規模こそ大きいが、空港のアクセスが悪く人の往来に対応できない。また金融業は人の出入りがダイナミズムであるが労働規制が強くてそれに対応できない。アイルランドのダブリンもフランクフルトと同じく街としての器が小さいという。
離脱を望んだ人たちが苦しむ結果に?
離脱の影響は、マクロ経済だけではなく、当然、英国民ひとり一人にも出てくる。移民の受け入れ数が制限されることによる弊害だ。土田氏は次のように語る。 「それまで移民にやってもらっていた労働条件の良くない単純労働や低賃金労働の担い手がいなくなる。英国人がそれをやってくれなければ給料を上げる必要が出てくる」 給料が上がるのならいい話のように聞こえるが、それでは終わらないという。英国人の給料を上げた場合、英国の産業は金融以外では生産性が低下する。生産性が下がると、その先は為替相場でポンドが安くなる。そうなると、輸入する場合に価格が高くなるため、物価が上がるという流れが予想されるからだ。 「移民の流入が減って、英国民はつかの間の賃金増加を享受できるかも知れないが、それ以上に、英国の生産性の低さを反映して為替が下がるリスクが大きいので、輸入が滞り、物価が上がるという最悪のシナリオが待っているのではないか」 英国の金融センターとしての地位は揺るがないものの、金融以外の産業がとばっちりを受けることになるという。「離脱を望んだ英国民はEUからの利益を受けていないと感じていたが、実はさまざまなところで受けていた。それを彼らは失うことになる」
---------------------------------- 土田陽介(つちだ・ようすけ) 2005年一橋大学経済学部卒、2006年同修士課程修了。浜銀総合研究所を経て2012年より三菱UFJリサーチ&コンサルティング勤務。専門は欧州を中心に海外の経済・金融事情に関する調査分析。査読付き論文も多数。日本EU学会会員