「完全に負け戦」EU離脱後の英国が進む茨の道
簡単ではない個別の国々との通商交渉
英国にとって考えられる離脱のデメリットは、どんなものがあるのだろうか。土田氏はその一つとして、各国と独自にFTAを結ぶための人的・時間的コストを挙げる。 「通商協定を結ぶためには、そのための人員を配置しなければならない。それは多大なコストだ。これまでの3年弱にわたるブレグジットの交渉でも、英国とEUは人員を割かれた。それがなければ、他の案件に充てられたはずだ。また、これまではEUが担ってきた他国との交渉に“タダ乗り”することができたが、今後は個別に交渉することになる。現在の英国にはそういったタフな交渉のできる人材はいないだろう」 さらに、移行期間内に通商交渉がまとまらなければ、英国は各国との経済取り引きの際、WTOの規定に基づく関税がかかることになる。関税率は品目によって異なるが、「これまでEU内では関税がかかっていなかったのに、それが何%であれ、かかることになればコストになる。短期的なショックは避けなくてはいけないはずだが、それはジョンソン首相次第だ」
金融センターの地位は揺るがないが
では中長期的には、英国経済が好転する可能性はあるのだろうか。土田氏は「もちろん可能性はあるが、そうなる保証はない」という。 「英国は民意に推されてEUから離脱したわけだが、EUを出た後の成長戦略を描けていないし、仮に描いたとしても、それが実際に花咲くかは分からない」
ただEU離脱にもいい部分はあるという。それはEUの政策は“ブリュッセル(ベルギー)ですべて決まる”とも揶揄されるような「規制」からの解放だ。 「EUのルールは厳し過ぎて、経済の成長にとって本当にいいのか分からない部分もある。たとえばEUは、流通するバナナの形すら規制する。フライドポテトに使う油も植物性にしようと規制をかけようとした。多分に官僚主義的なところがあり、そうした過剰な規制から逃れられる。それに、財政支出のルール(※)にもとらわれる必要がない」 金融産業にとって規制は成長の阻害要因になることもあり得る。そのため「EU離脱によって規制緩和が進み、金融が発達すると考える人もいるかもしれない」可能性もあるとした。 (※)EUの財政ルール…EUでは財政赤字の国内総生産(GDP)比を3%以内に、債務残高のGDP比を60%以内に保つことが求められている。