東日本大震災13年 被災地で示された象徴天皇の姿
弦楽器製作者の中沢宗幸さん(83)は、陸前高田市でがれきとなった木材を集め、枯死した一本松の幹を譲り受けて、これまでにバイオリン、ビオラ、チェロ計11丁を製作した。13年1月、当時皇后だった美智子さまが津波バイオリンの演奏会を鑑賞した際、中沢さんから「皇太子さま(現在の天皇陛下)に弾いていただきたい」との思いを伝えたことが、定期演奏会で実現した。 津波バイオリンなどを演奏家に弾き継いでもらうことで震災の記憶を伝え続けようと、中沢さんはプロ・アマを問わず1000人のリレー演奏を目指すプロジェクトに取り組んできた。美智子さまは、中沢さんに「音楽は人の心に寄り添う力がありますね」と語り、「このお仕事は、私たちがいなくなっても続けていかなければならないお仕事ですよね」と話したという。その言葉は、国民に寄り添い続ける天皇の姿に重なるかのようでもあり、中沢さんは思い返しては涙がこぼれるという。
「まるで時間がゆっくり進んでいるような、落ち着いた雰囲気をつくり、被災した方が内に秘めていたことを話すのを聞き届けられていた。特別な空間が醸成されているようだった」。陸前高田市の佐々木拓市長(60)は、天皇、皇后両陛下の訪問をこう振り返る。そうした情景を幾度も見てきた羽毛田氏は、深い感慨を込めて語る。「そこが、象徴天皇というものの本質ではないでしょうか。政治家、行政官ではなしえないところです」 令和の世も国民と共にあろうとする天皇陛下。皇后さまとともに能登半島地震の被災地へ赴く日も遠くはないだろう。
【Profile】
住井 亨介 全国紙で警視庁や宮内庁の担当記者、海外特派員などを経験し、現在ニッポンドットコム編集部チーフエディター。ハーバード大学客員研究員として「北朝鮮による拉致問題」を研究した。国内外における幅広い分野のニュースに関心を寄せる。