松尾潔・パリオリンピック開会式に「フランス文化の重層性をみた」
■フェミニズムを強く打ち出すフランスの凄み 「参加することに意義がある」という名言で有名な、近代オリンピックの父と言われるクーベルタン男爵はフランス人です。一方で、フランスは100年間オリンピックを開催していなかった国でもあるんです。 クーベルタン男爵は当時、女性がオリンピックに参加することに反対していたそうで、今風に言えば「黒歴史」なのかもしれませんが、そういったモヤモヤを払拭するように、今回特にフェミニズムっていうのを強く打ち出していて、開会式にはフランスを代表する10人の色とりどりの女性像が登場しました。 特に最後に出てきたシモーヌ・ヴェイユは「ヴェイユ法」という中絶に関する法律の制定に尽くしたことで知られている人物で、映画にもなった人です。こういったものをスポーツの祭典の前にあれだけの尺を使ってやるというところが、僕はフランスという国の凄みだなと思いました。文化系と体育系というように値踏みするような日本の古い発想から一番ほど遠いとこにあるなと。 ■多様化の先進国フランスに学ぶ ダンスミュージックを中心にしつつ、ゴジラというヘヴィメタルバンドも出ていました。ここに至るまで音楽が絶え間なく延々と流れていましたが、これでダフトパンクが再結成してくれたら言うことなかったですね。ま、それは閉会式に望みをつなぐとして(笑)。 レディー・ガガのほかに、もう1人話題をさらった、開会式の最後の一番いいところで「愛の讃歌」を歌ったセリーヌ・ディオン。ここ数年体調が芳しくないと伝えられてきましたが、見事な復活ぶりでした。 セリーヌ・ディオンの前に登場したアヤ・ナカムラというマリ生まれの歌手もそうですが、厳密にいうとフランス人じゃないんですよね(ナカムラはマリとフランスの二重国籍)。セリーヌ・ディオンはフランス語圏のカナダ・ケベック州の人ですから。出生地とか国籍とか、もっと言うと、人種、民族にこだわらない開会式でした。今、我々が流行語のように日本で多様性、多様化と言っていますが、その先を行っていると言ってもいいでしょう。