松尾潔・パリオリンピック開会式に「フランス文化の重層性をみた」
このテーマ設定といい、スポーツとアート、その向こうに見える社会・生活、そういったものが全部地続きなんだよということを見せるというね。50代の僕が初めて意識的に観たのはモントリオールオリンピック(1976年)です。そこから前回の東京オリンピックまで、競技に対しての関心は薄れる一方ですが(笑)、仕事がエンタメということもあって開会式は特にこの2、30年は分析的に見ています。今回は最高のショーの一つだったと思います。 ■一つ一つを掘り下げると重層的な経緯を知ることができる 個人的に今、東京・帝国劇場で上演されているフランスのキャバレーを舞台にした「ムーラン・ルージュ」というミュージカルに関わっていることもあって、ここ2、3年はフランスのキャバレーに興味を持っていました。 キャバレーとは飲食を提供しながら踊りなどを見せる場所ですが、これはフランス発祥とされています。レディー・ガガの衣装も、キャバレー発祥国であるフランスに対するガガからのリスペクトが感じられました。 パリに観光旅行で行くとムーラン・ルージュ、クレイジーホースなどを見ることが出来ますが、その中でもリドという高級なところがあって、そのリドのかつての舞台衣装のアーカイブスを借りて使っていたそうです(リドはコロナ禍により2022年にキャバレースタイル終業)。 ひとつひとつを掘り下げていくと、テレビの中継で数秒、数十秒しか映らなかったようなものでもこんな重層的な経緯があるんだということを知って感動を覚えます。EUのモットーである多様性の中の統合という言葉がありますが、ショー全体としてはそれがよく表れていましたね。 他にも、例えば最後の晩餐のオマージュとしてドラァグ・クイーンたちが登場した場面がありましたが、こういった場面って発想はできてもスマートに見せるのはなかなか難しいものです。それができるエンタメ力がある国がどれぐらいあるのだろうかと思いました。