悪妻と言われたアインシュタインの妻の真実。成功者ではない女性たちの生きた証~『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』【サンキュータツオが読む】
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』(小林エリカ 著/筑摩書房)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。 * * * * * * * ◆もっと輝いたかもしれない女性たちの生きた証 彼女たちがいなければ「いま」はない。 女性の地位や環境は、私が生きている間にも、ゆっくりとではあるが改善されつつある(完全にはほど遠いが)。しかしそれは男性側が能動的に改善してきたわけではない。その背景には「これはおかしい」と声を上げ続けた女性や、淡々とキャリアを重ねてきた女性たちの存在がある。 そもそも成功者ばかりではない。男性の支配のなかで亡くなった人、いわれなき差別を受け亡くなった人たちもいる。生まれた場所や時代が違えば、もっと輝いたかもしれない女性たちの生きた証も、この本は残している。 たとえば、ミレヴァ・マリッチ。1875年に生まれ、優秀だったがゆえに男子高等学校に女性でただひとり入学。先天性の病気で片方の足が短く厚底の靴を履いていた彼女は、数学と物理学でトップの成績だった。その後、この時代にチューリヒ工科大学に進学、優秀すぎる彼女はクラスメイトの男たちに疎ましがられたが、ただひとりの男が熱烈にアプローチし続けた。その男がアインシュタインである。 彼女には輝かしい未来があったはずである。しかしこの男と出会ったがために、妊娠をし、結婚をせぬまま出産。その後アインシュタインが職を得ると結婚するが、二人の男の子を生んだ彼女は学問や研究ができなくなる。夫はまったく家庭を顧みない、どころか不倫をし、ドイツに移住してしまう。強要された離婚の示談金はノーベル賞の賞金で賄われ、彼女は「悪妻」「強欲」呼ばわりされるのだ。しかもその金は次男の病気の治療費に使われたというのに。しかし、強く生きた。闘った。 「女というのは、才能や努力にくわえ、男選びまで秀でなくてはならないのか?!」という著者の言葉が胸に残る。見過ごされがちな「彼女たちの戦争」を忘れてはならない。
サンキュータツオ
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