“トヨタのドライバーのなかでトップレベルで戦えるドライバー”平川亮のF1テストは「コースをはみ出すことすらなかった」と中嶋一貴TGR-E副会長が評価
12月10日(火)にアブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたポストシーズンテストには、角田裕毅、岩佐歩夢とともにもうひとり、日本人ドライバーがいた。平川亮だ。平川は12月6日に行われたアブダビGPのフリー走行1回目ではマクラーレンのオスカー・ピアストリのマシンを走らせたが、その直後のテストではハースのマシンを走らせていた。 【写真】2024年F1アブダビテスト 開始直後はウエットタイヤを使用した平川亮(ハース) その経緯をTGR-E(TOYOTA GAZOO Racingヨーロッパ)の副会長を務める中嶋一貴はこう説明した。 「平川亮はこれまで何度か(マクラーレンの)実車をテストしているとはいえ、それは2年落ちのTPC用のテスト車でした。TPCではタイヤもアカデミータイヤ。そんななかで、TGRとハースが提携することになり、アブダビGPの後のポストシーズンテストのルーキー枠で走らせることが可能だというオファーが(ハースから)ありました。最新のF1のクルマを走らせる機会にノーと言う理由はないので、我々としては平川にチャンスを与えました」 なぜ、平川だったのか。 「トヨタのドライバーのなかでトップレベルで戦えるドライバーが平川だったということです。マクラーレンで行ってきたテストでも、マクラーレン側からしっかりとした評価をいただいていました。もちろん、(小林)可夢偉もまだ現役でトップレベルで戦えるドライバですが、F1をはじめすでにいろいろ経験しているので、さすがに……」 平川のポストシーズンテストはどんな内容だったのだろうか。中嶋副会長はこう振り返った。 「テスト開始早々はウエットタイヤを履いて、その後、インターミディエイトに履き替えて空力のデータ取りのためにストレート区間で低速走行していました。もう1台のマシンを走らせた(エステバン・)オコンも同じで、向こうは最初からインターミディエイトタイヤで空力のデータ取りを行っていました」 空力のデータを収集した後は、ひたすらロングランを行っていたと中嶋副会長は振り返る。 「午前中はチームのプランに沿ってメニューをこなしていました。最初はC3タイヤで6~7周のミディアムランを4、5回ほど行って、その後にC4タイヤに履き替えて12周のロングランを3本走っていました」 タイヤのロングランでのフィーリングを伝えつつ、セットアップも変更していった。 「セットアップ変更もチーム側のプランに沿って行い、平川はそれに対してフィードバックするというパターンでテストしていました。走り初めから平川のフィードバックが非常に明快で、さらに平川が感じていることとデータが一致していることに、チーム側は驚いていました。この調子で午後も頼むといった感じでした。午後には平川のリクエストでいくつかのセットアップ変更も行いましたが、変えるごとにタイムもよくなっていき、とてもポジティブなテストでした」 そのなかで、平川からチームに対してセットアップの変更を要求することもあったと中嶋副会長は言う。 「チーム側のランプランをこなしつつ、自分からもセットアップの変更を要求し、ウイングのフラップの角度を調整したり、メカニカルな部分のセットアップを変えていました。その変更が走りとデータにも現れていて、エンジニアも満足していたようでした」 ポストシーズンテストには多くのFIA F2ドライバーが走っていた。2024年にF2に参戦し、2025年もARTグランプリからF2に挑戦することが決まった宮田莉朋が、今後F1のテストを行う可能性はあるのだろうか。中嶋副会長は、こう語る。 「もちろん、ありうると思いますし、そうなってほしい。機会があれば、どんどん経験を積ませたい」 2024年のF1日本GPでは、RBがリザーブドライバーの岩佐歩夢にフリー走行1回目を走らせた。2025年の日本GPでハースからTGRのドライバーが出走する可能性はあるのだろうか。 「そうなれば、日本のみなさんが喜ぶだろうとは思いますが、今はなんとも言えません。2025年のハースは移籍してくるオコンとフル参戦1年目の(オリバー・)ベアマンというラインアップ。しかも鈴鹿がシーズン序盤ということを考えると、そこで日本人を走らせるのは少し難しいかもしれません。ただ、我々が目指しているのは、FP1に出ることではなく、レースに参戦することなので、たとえFP1に出られなくても、ほかのなんらかの方法でしっかりと経験を積ませたいと思います」 平川は後半もノートラブルで合計133周を走破。ベストタイムは1分24秒435だった。これはルーキー枠では12人中6位。しかし、中嶋副会長はベストタイム以上に内容が素晴らしかったと、平川の仕事ぶりを讃えた。 「オコンにはコンマ1秒ちょっと及ばなかったんですが、あのオコンとほぼ同じタイム。ミニセクターでは速い部分もいくつかあり、燃料搭載量は同じだったことを考えると、平川の方が速かったと言ってもいいくらい、テストはすこぶるよかったです。ミスしてコースアウトするどころか、コースをはみ出すことすらなかったですから」 10月にハースと業務提携を結び、第19戦アメリカGPからハースのF1マシンにTGRのロゴが貼られて約2カ月。2024年のポストシーズンテストは、そのロゴが入ったマシンに、トヨタのドライバーが初めて乗ったイベントとなった。トヨタが育成したドライバーがトヨタのロゴが入ったF1マシンをグランプリサーキットで走らせるのは、2009年のアブダビGP以来、15年ぶりのこと。15年前のアブダビGPを最後にF1を撤退したトヨタ。そのアブダビでトヨタのドライバー育成は、F1を目指して新しいスタートを切った。 [オートスポーツweb 2024年12月20日]