「ビリギャル」は日本だから生まれた 小林さやかさんが語る日米の受験システム
「努力した人」が集まる
――今は大学院でどんなことを学んでいるのですか。 認知科学を専攻しています。具体的には、その人が持つ信念やマインドセットが、いかにパフォーマンスに影響しているかということに特に興味があります。この見地に立つと、日本の教育は、望ましいことと逆のことをやってしまっているなということがわかってきました。 ビリだった高校時代、坪田先生に「東大に行きたい?」と聞かれて「まあ行けるだろうけどべつに行きたくねーな、興味ねーな」と答えたのですが(笑)、坪田先生はそれを聞いて、「この子は伸びる」と思ったそうです。ほとんどの子は「自分に東大は無理だ」と答えるそうです。東大の過去問すら解いたこともないのに、です。 ――小林さんは、「イケメンが多そうだから慶應大のほうがいい」と思ったそうですね(笑)。「東大も行けるだろうけど」と思えたのはなぜなのでしょうか。 私の場合は、母の教育方針と、中学受験での成功体験が大きいと思います。日本の親御さんは子どもが転ばないように先回りして、道にある障害物のすべてをどけてしまうようなところがありますよね。でも私の母は、極端な例え話ですけど、仮に私が転んで血まみれになっても、「わあ! さやかちゃんよかったね。そこで転んだら危ないってことがわかったもんね。すごい!」というような人だった(笑)。そういう、「我が子に転ばせる勇気がある母」に育てられたから、私は失敗を失敗と認識せずに育ったのかもしれません。だから挑戦するのも怖くないし、転ぶたびにそこから学んで強くなってこられたのかも。中学受験も、母が育ててくれたこのマインドセットのおかげで頑張れたんだと思います。そしてこれが大学受験のときの自信につながった。ちょっとずつだけど、成功体験を積み上げられたんです。 「うちの子には無理」とか言って、我が子が努力で成長できる可能性をわざわざ潰すことにどんな理由があるのか、私にはわからない。全国を講演でまわったときにも、私の話を聞いて、「よっしゃ、俺も慶應大学を目指すぜ!」と言ってくれた子が、家族に「お前が行けるわけない」と言われて諦めてしまった例もありました。失敗せずに成功するなんてまず無理なのに、我が子に失敗させたくない親御さんがたくさんいるんだなあと、ビリギャルとして活動していて本当に痛感しました。結果はさておき、本人が決めたことはいったんやってみたらいい。 ──そして小林さんは日本で名門大学とされる慶應大学を選びました。その選択のメリットを挙げるとしたら? それは「出会う人が変わる」こと。これに尽きます。今は勉強も、授業を受けることさえもオンラインでできますよね。でも、実際にどんな人たちと顔を合わせて友達になれるかは、どんな大学に行くかで変わってきます。これは自分の努力次第です。 私は坪田先生に出会わなければ、大学受験もせず、今とはまったく違う世界を生きていたはずです。その世界ではきっと一生接点のなかったはずの人たちと、慶應大学に進学したことで知り合うことができた。偏差値という指標を取り去ったとしても、たくさんの努力をしてきた人たちが集まっている場所であることは間違いありません。