2016年「生理学・医学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
遺伝子操作技術が現実的になってきた1960年代には遺伝子治療のアイデアは出ていましたが、フリードマン博士はまだ夢物語の域を出ていなかった1972年に、遺伝子治療の研究の意義や倫理的な配慮まで含めた今後の研究の在り方を示した論文を発表しました。遺伝子治療のその後の発展を支える基礎となった論文です。 細胞や動物を使った基礎研究の成果をもとに、90年代にはいくつもの臨床研究が行われました。しかし、期待通りの効果が見られなかったり、従来からの治療法である薬も中断せずに遺伝子治療が行われたため、効果が見られても本当にそれが遺伝子治療によるものなのかが判断できなかったりして、遺伝子治療は大きな壁にぶつかります。追い打ちをかけるように、99年には副作用による死亡事故も発生し、人々の間に失望と不信感が広がりました。 そんななか、2000年に実際の患者さんを対象に、世界で初めて遺伝子治療の効果を「科学的に」実証したのがフィッシャー博士です。症状の改善を確認した後も、重い副作用をできる限り避けられるよう、治療の肝となるベクターの改良を続け、治療の安全性を高めました。 現在、多くの病気で遺伝子治療による根治の可能性が広がっています。欧米では数年前に遺伝子治療用のベクターが医薬品として認可されました。遺伝子治療はもはや「研究」の域を超え、普及と展開の時期に入りつつあるのです。 ◎予想=科学コミュニケーター・浜口友加里
10月3日午後6時半から発表
ノーベル生理学・医学賞は10月3日午後6時半(日本時間)から発表されます。今回紹介した3つの研究については、日本科学未来館の科学コミュニケーターブログでより詳しく解説しています。予想が当たっても当たらなくても、これを機会にご紹介した研究・研究者にも興味を持っていただけたらと思います。 --------------------------------------- ◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 高橋麻美(たかはし・あさみ) 1988年、愛知県生まれ。磯遊びとダイビングが趣味で、生物を使った科学コミュニケーションが得意。琉球大学大学院理工学研究科を修了後、2013年より現職
《関連リンク》 ・アレルギー反応(抗体) ・アレルギー反応(制御性T細胞) ・小胞体ストレス応答 ・遺伝子治療