2016年「生理学・医学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
■アレルギー反応機構を解明
石坂公成(いしざか・きみしげ)博士、坂口志文(さかぐち・しもん)博士 アレルギーは免疫の過剰反応です。免疫は自分でないもの(=異物)を攻撃する身体の仕組みです。病原体やがんなど攻撃しなくてはならないものだけを攻撃してくれれば良いのですが、私たちの身体は完璧ではありません。自分自身を誤って攻撃してしまったり、花粉や食べ物などの攻撃する必要がないものに過剰に攻撃してしまうことがあります。まさにこの後者の、大した脅威でもないものへの過剰な攻撃が「アレルギー」です。
自分でないものを攻撃する際にはさまざまな細胞が連携して働きます。その中でB細胞は「抗体」という飛び道具を使う攻撃部隊です。抗体にはいくつか種類があることが分かっており、石坂博士はその中のひとつ「IgE抗体」を発見しました。そしてIgE抗体がくしゃみや鼻水などのアレルギー症状の引き金となっていることを明らかにしました。
一方、坂口博士は免疫機構の攻撃を抑える「制御性T細胞」という重要な細胞を発見しました。制御性T細胞は、アレルギーを引き起こすタンパク質(アレルゲン)への過剰な攻撃を抑えることができます。実際にアレルゲンに反応する制御性T細胞が少ないことがアレルギーの原因になっていることが分かってきています。 まさに現代病の代表格とも言えるアレルギー。治らないものだと半ば諦めかけている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、アレルギーの仕組みを明らかにした石坂博士と免疫機構を制御する細胞を発見した坂口博士の功績によって、アレルギーを治せる時代はすぐそこまで来ているのです。 ◎予想=科学コミュニケーター・石田茉利奈
■遺伝子治療の概念の提唱とその臨床応用
セオドア・フリードマン(Theodore Friedmann)博士、アラン・フィッシャー(Alain Fisher)博士 遺伝子治療は、遺伝子の変異が原因で起こる病気に対する有望な治療法の1つです。私たちの体は、遺伝子の情報をもとに体の中で働くタンパク質を作りますが、この遺伝子情報が変わってしまうと、あるべきタンパク質が作られないなどの異常事態が起こり、病気につながります。遺伝子治療では、ウイルスなどに由来する「ベクター」を使って外から正常に機能できる遺伝子を送り込むことで、変異が起こっている遺伝子の働きを補います。