手土産に無関心な人は仕事ができない。伊藤忠岡藤が考える贈り物の選び方
世界的な原料高騰が続く中、追い風を受ける日本の商社業界。中でも伊藤忠商事は財閥系以外の総合商社として時価総額を大きく伸ばしている。なぜ、伊藤忠は圧倒的な成長を遂げているのか。その答えの一つは、創業以来受け継がれてきた「商人」としての心構えにある。 【全画像をみる】手土産に無関心な人は仕事ができない。伊藤忠岡藤が考える贈り物の選び方 本連載では、岡藤正広CEOをはじめ経営陣に受け継がれる「商人の言葉」を紐解きながら、伊藤忠商事がいかにして「商人」としての精神を現代に蘇らせ、新たな価値を生み出しているのかを深掘りしていく。 連載第7回は、岡藤流手土産の考え方。
「手土産に無関心なやつは仕事ができない」
話は少し変わる。 岡藤は手土産を非常にうまく使う。トップ営業のシーンでも、社交でも、お礼を送る場合でも贈り物を秘書任せにはしない。細心に選んでいる。社内の根回しだけでなく、伊藤忠のイメージアップのために手土産を使っている。 まず「何を差しあげるか」は秘書が基本的なプランを作る。岡藤はそれをチェックして、一人ひとりの顔を思い浮かべながら品物を決める。金額も物品の内容も細かく指定する。 例えば、これはわたしが実際の場面を見聞した例だ。彼はある人物と面談し、その人が岡藤のベルトを褒めた。 「いいベルトですね。お似合いです」 次にその人と会った時、「これ」とさりげなく、箱を渡した。開けてみたら、なんとその人が褒めたベルトと同じものが入っていたのである。ベルトはその人の好みにぴったりだった。 商人が贈るプレゼントとはこういうものだ。相手の好みを知っておいて、そのうえでサプライズを演出する。もらった人は確実に岡藤のファンになる。 もうひとつある。 2024年の8月、店頭から米が消えたことがあった。すると、その時、岡藤はそれまで決めていた贈り物プランを改訂して、出会った人物には関連会社の伊藤忠食糧が扱っている米に変えた。米がなかった時期だけにもらった人たちはみんな感謝した。 「普通は贈り物や手土産に米を渡すことはない」と本人は言った。それはそうだろう。会社のトップに会い、別れ際に「これをどうぞ」と重たい米の袋を渡す人はいない。 だが、その時期は「令和の米騒動」とされた時期で、スーパーの店頭から米が消えていた。米をくれる人は神様だったのである。 贈り物や手土産を渡すことを軽く考えてはいけない。自らの情報収集能力が審査される機会であり、自らのセンスが試される。 岡藤だけでなく、地位や肩書がある人間ほど、手土産、プレゼントを真剣に検討しているのである。 逆にお礼状、プレゼント、手土産に無関心な営業マンは損をしている。まず間違いなく出世しない。手土産ひとつでシーンを変えることができるとわかっているのが本当の商人だ。