「かわいそうな日本の老人」…訪日した中国人がタクシー運転手にギョッとするわけ【中国人「老後問題」の壮絶!#2】
【中国が抱える老後問題の壮絶】#2 「私のお母さんが驚いてた。『日本では頭の白い人がタクシーを運転するんだね』って。中国じゃ、タクシーの運転は30~40歳ぐらいの人の仕事なんですよ」 (1)親子経営の会社が倒産…借金に追われ家も失い、残ったのは「運転免許」だけだった【タクシードライバー哀愁の日々#1】 こう話すのは昨年家族とともに来日した山東省出身の留学生だ。実は「白髪のタクシー運転手」はインバウンドで訪日した中国人客の間でも格好の話題となっている。ある中国人の観光事業者は言う。 「運転手だけじゃないです。日本では警備員、店員、ツアーガイドに高齢者が目立ちます。それを見て中国人訪日客は『結構、年だよね』とささやいているんです」 日本社会には欠かせない貴重な労働力も、中国人の目には「こんな年齢まで働かされて、かわいそう」だと映る。人生の晩年に海外を豪遊する自分たちをまんざらでもないと思う、そんな中国都市部の高齢者の生活を支えているのが中国の年金制度だ。 日本在住20年の上海出身の男性がこう話す。 「民営企業でも国営企業でも、年金支給額は悪くないんです。親戚の元中学校教員は夫婦2人で毎月40万円超をもらっていて、悠々自適の老後を送ってますよ」 中国人が定年を心待ちにするのは、厚みのある年金が支給されるため。だが間もなくこのシナリオも崩壊する。というのも、中国では2035年までに公的年金の積立金が枯渇するといわれているからだ。今年9月の全人代(全国人民代表大会)で、定年年齢を来年1月から段階的に引き上げ、男性を現行の60歳から63歳に、女性を58歳まで延ばしたのもそのためだ。 これに対し大連市在住の会社員は「間もなく定年で楽できると思っていたが、9月に定年引き上げが発表された。これで年金生活は遠のいてしまいました」とじだんだを踏む。 ■いずれ日本が“手本”と化す 実は定年引き上げには市民から猛烈な反発が上がっていた。労働者が層を成す中国だが、肉体的にも精神的にも厳しい低賃金労働なので、すぐにでもやめたいと願う人が多い。 「定年引き上げにより退職者が減れば、若者の就職の機会はますますなくなる」(前出の留学生)とする声もあった。新婚夫婦からすれば、高齢者(自分たちの父母)が働き続けることは育児支援者がいなくなることを意味する。 他方、日本はどうか。テレビの街頭インタビューでは「年金が足りない」という声を耳にするが、条件があえば「シルバー人材センター」などが仕事を紹介するなど、社会も高齢者の就業を支援している。日本政府はこれまでも、企業に対し定年退職者の就業機会を確保させるための措置を講じるなどして、一定の成果を収めてきた。また根底には、多くの高齢者の「社会の役に立ちたい」という気持ちもあった。 中国人の目に映る「かわいそうな日本の老人」だが、その勤労精神や社会制度を含めて、いずれ日本が“手本”と化す日が来るだろう。 (姫田小夏/ジャーナリスト)