高齢者“冬場の入浴”で事故多発、死者数は交通事故の2倍以上…もしもの場合、同居する「家族」に法的責任は発生する?
万が一のとき、家族の法的責任は…?
上記の通り、消費者庁の注意ポイントの中には、同居人が高齢家族の様子を確認することや、食後・飲酒後の入浴を避けることが含まれている。 考えたくもないことだが、もし万が一、この年末年始に会食や飲食を楽しんでいたところ、高齢家族が浴室で亡くなってしまった場合、その家族に何らかの法的責任が生じることはあるのだろうか。 刑事事件に詳しい杉山大介弁護士に、例として以下4つのケースについて聞いた。 ①知らぬ間に高齢家族が風呂に入っており、浴室内で溺死していたのを発見した ②高齢の家族と会食・飲酒後に「風呂に入る」と言った高齢家族を止めず、その後、高齢家族が浴室で溺死してしまった ③風呂に入っている高齢家族が、長時間風呂から出てこないのに、放置した。高齢家族は浴室内で溺死した ④高齢家族と会食・飲酒後に、高齢家族に風呂に入るよう勧めたり、せかしたりするなどし、その後、高齢家族が浴室で溺死してしまった 杉山弁護士は「全体的な印象として、法的責任の話にはあまりなりにくい内容だと思います」としたうえで、次のように解説する。 「仮に刑事事件の視点で考えるとすれば、理屈としては、『保護責任者』の身分を持つ人に成立しうる犯罪が浮かんでくるかな、とは思いました。 試しに、『保護責任者不保護罪』(刑法218条後段)との関係で考えてみると、①のケースの場合は、家族も認識していませんから、どうしようもないのではないかと思います。法律は、不可能なことをしろとは要求できません。 また、②③と比べると、④は危険な状況をより積極的につくったということで、何らかの責任を観念しやすい状況にはなると思います。 ですが、まずは家族に『保護責任がある』という前提が必要になるでしょう。 大正・昭和の時代には、保護責任をある程度積極的に認める見解も有力で、扶養義務を直ちに『保護責任』に転化させた判例もあります。また、病人の雇い人を解雇して立ち去らせたり、堕胎により出産させた未熟児を放置したといった事案で保護責任を肯定していたりもしました。 ただ、いずれにしても、もう少しわかりやすい『危険な状態』における話ですから、風呂という場面に、どこまで危険性を認めるのかは、かなり議論の余地があるように思います。 確かに、飲酒した高齢者を積極的に風呂に入らせた場合、それが法的責任に至るのかはともかく、生命の危険に対する寄与があるのは確かだと思いますので、少し考えてみたくなる要素はあります。 現在、NHK BSで再放送中の連続テレビ小説『カーネーション』でも、主人公に関係する重要人物が、傷病を負っている状態で飲酒後に風呂に入って亡くなるのですが、『一緒にいた人に、責任が生じるのか』などと考えてみると、興味深いことには、この質問を受けて気が付きました。 ただ、あくまでも、現状としては、刑法の教室でやるような思考実験の領域であって、犯罪に問われるリスクを、現実に指摘するものではありません」(杉山弁護士) 基本的には責任を問われることはないとはいえ、年始早々このような惨事は避けたいものだ。家族での見守りや環境づくり、適切な入浴方法を徹底し、新年も健やかに過ごしたい。
弁護士JP編集部