ビジネス上のリスク、キャリアの分断 経団連が選択的夫婦別姓の早期導入を求めた理由 #家族とわたし
──だとすると、調査から提言発表まではスムーズでしたか。 「ええ。経団連は政策分野ごとに委員会で検討するのですが、ダイバーシティ推進委員会で検討が始まりました。昨年12月以来、さまざまな講師をお招きして議論を深め、過去の法制審議会などの議論も踏まえて、半年ほど精力的に検討を重ねました。その過程でファクトも重要だということで5月にアンケート調査を行い、まとめたものを6月に発表したという流れです」 ──昨今、海外投資家からESG(環境、社会、ガバナンス)投資や人権などについて日本企業への注文も多いと聞きます。この問題でも海外からも注文があったのでしょうか。 「国連の女子差別撤廃委員会(CEDAW)は、2003年、2009年、2016年と再三にわたり、日本に対し夫婦同姓を強制する民法を改めるよう勧告しており、今年10月に8年ぶりの審査が行われる予定です。法務省の調査でも、婚姻時に同一姓を義務付けている国は、いまや世界で日本のみです。そういった点からも、選択的夫婦別姓の導入が必要です」
新首相のもとで議論は進展するか
「選択的夫婦別姓」は1996年に法務省の法制審議会で、導入を含む民法の改正要綱が答申された。だが、当時、この法案に自民党の保守派が強く反対。改正案の国会提出は見送られた。また、司法の場では、2015年、2021年に夫婦同姓は合憲という判断が下され、立法府での議論が期待された。だが、国会では改正法案は取り上げられないまま28年が経過し、現在に至っている。
──選択的夫婦別姓を拒む人たちは、導入すると家族のかたちが変わってしまうという主張をしています。 「まだ十分な理解が進んでいないように思うのですが、選択的夫婦別姓は『同姓か別姓かのどちらか』を問うているわけではないんですね。“選択的夫婦別姓”という名称の通り、どちらかの姓を選択できるということを問うています。言い方を変えると、『夫婦同姓を強制する社会』か、本人が望めば『別姓も選択できる社会』を目指すのかを問うているわけです」 ──7月のNHKの世論調査では、選択的夫婦別姓に「賛成」が59%、「反対」が24%。その他の世論調査を見ても基本的に賛成が多数になっています。 「選択的夫婦別姓は、国際的に働く女性だけの問題ではありません。姓名は、性別にかかわらず、その人の人格を示すものであり、アイデンティティにかかわる問題。つまり、選択的夫婦別姓はビジネスの世界だけの話ではなく、多くの人にとって、自分事になりうる選択の問題だと思うのです」