ビジネス上のリスク、キャリアの分断 経団連が選択的夫婦別姓の早期導入を求めた理由 #家族とわたし
今回の提言に先立って、今年5月、経団連は会員企業にアンケート調査を行った。「役職員の『通称』使用を認めていますか」という問いでは回答企業の91%が通称を認めていた。一方で、その通称では立ち行かない場面が多いことも明かされた。同時に行われた経団連会員企業の女性役員をメンバーとする「女性エグゼクティブ・ネットワーク」へのアンケート調査では、「旧姓の通称使用」が可能な場合でも「何かしら不便さ・不都合、不利益が生じると思う」と答えた女性役員は88%に上った。 アンケートでは「実際に困った経験」に複数の同意が寄せられていた。
「パスポート名と違う」空港やホテルでトラブル
●海外に渡航した際、公的施設・民間施設等への入館時に提示した公的IDとビジネスネームが異なるという理由からトラブルになった。(19名) ●海外に渡航した際、ホテルがビジネスネームで予約されていたため、チェックイン時にパスポートの姓名と異なるという理由からトラブルになった。(26名) ●希望していた金融機関でビジネスネームで口座を作ることや、クレジットカードを作ることができなかった。(26名) ●国際機関で働く場合、公的氏名での登録が求められるため、姓が変わったことが別人格としてみなされ、キャリアの分断や不利益が生じた。(3名) 自由記述でも、そうした声は多数寄せられている。 ●銀行口座やクレジットカードなどの名義を戸籍上の氏名へ変更する時の手続きが煩雑。 ●海外出張時、コロナワクチン接種アプリを使用しようとしたが、旧姓使用だったため対応できなかった。 ●社会的立場を形成した後に離婚したため、仕事への影響を考慮し、元夫の姓を使い続けているが、名前と自分の同一性を実感できない状態にあり、一種の基本的人権の侵害に感じる。 これらの調査を進めたのがソーシャル・コミュニケーション本部の大山みこさんだ。実際の経験に基づく不都合や不利益が明らかになったことは提言をまとめるうえで重要だったという。 ──アンケート結果を見ると、女性が非常に苦労されているのがわかります。 「この問題は一見、価値観に関わるように見えますが、経団連がまとめているのは、あくまでもビジネス上のリスクや不利益の話です。だからこそ、経団連として正式に検討の遡上に挙げるとなれば、まずファクトが大事だなと思っていました」