ECBの10月理事会のAccounts-Insurance against risks
金融環境の評価
理事会メンバーは、9月会合以降に短期金利が低下したが、金融市場では9月と12月に各々25bpという緩やかな利下げが予想されていたと指摘した。また、予想実質金利は短期ゾーンで低下したほか、中長期ゾーンは中立金利付近にあると評価した。 また、金融環境は依然としてタイトだが、9月の利下げは金融市場に円滑に波及し、企業や住宅向けの新規貸出金利が若干低下した点を確認した。一方、貸出金利の低下が緩やかである点は、ECBによる利上げ時に貸出金利の上昇が遅延したことの反映との見方も示された。 理事会メンバーは、銀行の貸出姿勢は依然としてタイトだが、企業の借入れ需要は2年振りにプラスに転じ、住宅借入の需要は、金利低下や住宅価格の好転を映じて引続き強い点を確認した。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。 インフレ見通しに関しては、本年後半はエネルギー価格の水準効果でインフレ率が上昇するが、賃金上昇圧力の低下や既往の金融引締めの効果により2025年を通じて減速するとの見方を確認した。また、インフレの中期的な目標に向けた収斂(on track)とリスクの上下方向へのバランスに幅広く(broadly)合意した。 その上で、持続的な政策対応が必要となるほどのインフレの下振れ(undershoot)は生じにくいとの意見が示され、理由として構造要因による供給ショックの継続が挙げられた。これに対し、足元のサプライズによるインフレ見通しの低下は大きく、金融市場は下振れリスクをより意識しているとの反論があった。 次に、インフレ基調に関しては、広範な指標が前回(9月)時点と低下ないし不変であった点を確認した。その上で、国内インフレ率の高止まりがサービス価格の上昇による点も確認し、モメンタムは低下し最悪期は過ぎたとの見方と、今後の指標を注視すべきとの見方の双方が示された。また、賃金上昇率は、一時的な支払や契約のラグのため、本年中は不安定との見方が示された。 最後に、政策効果の波及については、既往の金融引締めの効果が経済活動を抑制し続けていることに概ね(generally)合意した。また、金融環境は依然としてタイトだが、足元での軟化や予想実質金利の低下によって、より早期に中立的状況になるとの見方も示された。加えて、貯蓄率や設備投資の動向を踏まえ、経済活動の金利感応度が計量モデルより強い可能性も示唆された。 これらの議論を踏まえて、理事会メンバーは、金融引締めの度合いをもう一段緩和することが適当との判断に基づき、執行部による25bp利下げの提案を全会一致で支持した。ただし、一部(a few)のメンバーは12月まで待つべきとも主張した。 その上で、今回(10月)の利下げではリスクマネジメントの観点が重要である点を幅広く(widely)確認し、インフレの下振れを防ぎ、経済のソフトランディングに向けた保険の意味合いを持つとした。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也