なぜ生物は酸素を作り始めたのか。最初に光合成をした生物は?地球生命の共通祖先の姿を追う!
なぜバクテリア、アーキアは生き残ったのか?
バクテリア、アーキア、真核生物という3つのドメインの共通祖先、つまり全生物の祖先のことを「LUCA」(Last Universal Common Ancestor=普遍的祖先細胞)と呼びますが、そのLUCAから分岐した一つの系統が酸素非発生型の光合成機能を創ったのが、37億年前~32億年前。そこから現在のバクテリアの祖先が出現したんですね。 だとすれば、バクテリアが現在まで生き残りに成功したのは、光合成機能を受け継いだからだといえるでしょう。 一方、アーキアは光合成をしませんが、こちらは水素と二酸化炭素を使ってメタンを生成する能力を身につけました。詳しくはお話ししませんが、僕は去年発表した論文で、現存するすべてのアーキアの共通祖先が、メタンを生成する代謝を獲得していたことを明らかにしています。 ーーバクテリアは光合成、アーキアはメタン生成のおかげで生き残ったんですね。 それが、地球生命にとっての2大代謝なんです。
共通祖先「LUCA」の後ろ姿を追って
そもそも、LUCAから分岐したのがバクテリアとアーキアの2つだけというのは不自然です。それ以降、さまざまな進化によって現在のような生物多様性が生まれたのですから、LUCAからも多様な系統が生じたと考えたほうが自然でしょう。 ところが、その多様な生命の中で生き残ったのは、バクテリアとアーキアだけでした。いまのところ生命は真核生物を加えた3ドメインとされていますが、僕は真核生物の祖先はアーキアだと考えているので、LUCAの次はその2つです。 おそらく、光合成やメタン生成のような代謝を進化させられなかった生命は、早い段階で絶えてしまったのでしょう。その意味でも、光合成の誕生は地球生命史における大事件だったといえると思います。
LUCAも人間も持つ「遺伝子」という共通言語
ーーミステリ小説のようなドラマチックなお話を、どうもありがとうございました。ところで、今回のこのすごい研究には、どんな装置を使ったんですか? 基本的に、パソコンだけですね。じつは、ほとんどの部分は、ノートパソコンでできちゃいます。もちろん作業はものすごーく大変ですけど(笑)。 ーーえっ、パソコンでやるんですか? いまの生物学業界は「ゲノム時代」といわれるぐらいですから、多くの研究者が膨大な生物のゲノム情報を調べて、それがデータベース化されています。ただ、それに手をつけて何か調べようとする研究者はあまり多くありません。 考古学でいえば、古代文字で書かれた史料が山ほどあるのに、誰も読もうとしていないような感じでしょうか。しかしそこには重要な情報が眠っています。だから僕は、データベースにアクセスしてそれをパソコンで解析したわけですね。 遺伝子解析が面白いのは、まず40億年分の情報がそこに記録されていること。さらに、地球上のどこに行っても共通言語として通じることですね。われわれ人間からLUCAまで、すべて同じ言語で書かれているんです。 だからこそ、古代文字のような情報が現在の生物の中でどう使われているのかを実験的に調べることもできる。これは、考古学ではできません。考古学と比べたら贅沢すぎるほど膨大なデータが揃っているんです。工学者だった僕は、たまたまそういう研究環境が整ったタイミングで生物学の世界に飛び込みました。その意味では、運も良かったのだと思います。 ---------- <共同研究者紹介> 海洋研究開発機構 塚谷祐介 産業技術総合研究所 西原亜理沙 (現所属・理化学研究所) 中央大学 浅井智広 ---------- 取材・構成:岡田仁志 取材・図版協力:国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) 撮影:神谷美寛・講談社写真部
延 優(国立研究開発機構 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 超先鋭研究開発部門 超先鋭研究開発プログラム)