なぜ生物は酸素を作り始めたのか。最初に光合成をした生物は?地球生命の共通祖先の姿を追う!
大酸化イベントの起源はシアノバクテリアではない!
ーーつまり、シアノバクテリア以前にも酸素発生型の光合成をする微生物はいたけれど、のちのシアノバクテリアほど効率よく光合成できなかったので、酸素の発生量も少なかったということですか。 そのとおりです。シアノバクテリアは非常に奇妙な生物で、光合成で発生する酸素を自分で使って酸素呼吸をするんですよ。 本来、光合成と酸素呼吸は相容れないのですが、それを無理やり共存させたのがシアノバクテリアです。その共存を可能にするのも進化上の大きな課題だったので、酸素発生型からシアノバクテリアの完成まで、だいぶ時間がかかったのだと思います。 「大酸化イベント」は、当時の既存の生物にとって「毒ガステロ」みたいな大事件でしたが、シアノバクテリアは自分で出す酸素を自分で飼い慣らすことができた。その能力を身につけるまでに、10億年ぐらいかかったんですね。
酸素生成型光合成の誕生と「リン」の存在
――酸素発生型の光合成は地球環境を大きく変えたわけですが、その進化自体も環境への適応だったわけですよね? 酸素発生型の光合成を進化させたのは、どんな環境変化だったのでしょうか。 地質学の研究によって、30億年ほど前まで、地球の海では生命に不可欠なリンが枯渇していたと考えられています。生命にとっては、厳しい環境ですよね。 しかし太古代(40億年前~25億年前)の後半に、大陸が上昇し始めました。すると、風雨にさらされた陸上の石が削られるなどして、リンをはじめとする栄養素が海に流れ込んでいきます。リンの枯渇から開放された生物たちは、一気に増殖したと考えられます。 そうなると、こんどは生物のエサである電子源が不足します。すでに酸素非発生型の光合成は始まっていましたが、前の記事でお話ししたとおり、これは鉄、硫黄、有機物などの電子源を必要とするので、生きるのが厳しくなりますよね。 しかし、この電子源不足という環境に適応できた光合成機能が2つありました。水を電子源とする機能と、自分の中で電子をグルグル回す機能です。海には水がほぼ無限にあるので、水を使えるようになれば電子源が枯渇することがありません。 ここで、その2つの機能を可能にした仕組みを説明しましょう。光合成生物が光に反応する「反応中心」というシステムには、「系I型」と「系II型」の2種類があることがわかっています。今回の解析では、I型が古く、II型が新しいものだとわかりました。 光合成生物の共通祖先はどちらも持っていたことがわかりました。祖先のI型は現代の反応中心と近い構造を持っていましたが、当時のII型はまだ始原的な・発展途上な構造でした。 図のように、I型は「アンテナ」と呼ばれる部品が光を集めて反応中心に送り込む形になっている。II型は当時アンテナがなかったので、効率が悪かったんですね。しかしI型は持たない能力「電子源いらずの(電子をグルグル回す)光合成」を可能にしました。2つの反応中心は電子の受け取り方が同じなので(同じ電子伝達体を利用)お互いを補完することはできましたが、連動は当時できませんでした。 したがって、酸素非発生型の光合成をする。一方、シアノバクテリア門は水を酸化する能力を身につけています。現存する光合成生物の祖先たちは、太古代後半の地球で生き残るために、そのどちらかを選択したんですね。 大陸が生まれて電子源が枯渇した時代には、自分で電子をグルグル回せるII型が適応的ですよね。しかし結局生物が増殖するためにはエネルギーに加え電子もある程度必要なため、それだけでは効率が悪い。本当はI型の力も借りたいところ。そこでII型が従来の電子の受け取り方を捨て、代わりに水から直接電子を獲得する能力をもつような進化が起こります。 グルグル電子を回す能力は失われてしまいましたが、図のように、それを改変することでI型との連動もできるようになりました。結果的にII型とI型を連動させ、水から酸素を発生させる光合成が誕生したわけです。更にもともとII型にはなかったアンテナもI型から借りることでグッと酸素発生能力も向上しました。この進化が起きなければ、光合成生物が現代ほど繁栄することはなかったでしょうね。