なぜ生物は酸素を作り始めたのか。最初に光合成をした生物は?地球生命の共通祖先の姿を追う!
「分子時計解析」の衝撃の結果!
ーーこれまでのお話では、生命そのものの進化と機能の進化を統合する必要があったというお話しをうかがいました。こちらの研究も、やはり化石情報と分子情報を合わせてトータルに見るわけですね。 そういうことです。その分子時計解析の結果を、現代に近いほうから説明しましょう。 まず、これまで「大酸化イベント」の主役と見なされていたシアノバクテリアの出現は、12億年前~18億年前だと計算されました。「大酸化イベント」の始まりは24億年前とされているので、それよりかなり後になりますね。ただし酸素発生型の光合成が始まったのは25億年前~26億年前だとわかりました。 ーーそれは教科書が書き換わるレベルの発見ではないでしょうか。これまではシアノバクテリアの登場から「大酸化イベント」が始まったと思われていましたよね? はい、基本的にはみんなそう思っていましたね。でも、「シアノバクテリアの登場」と「酸素の発生」のタイミングを一致させると、分子時計解析の計算がすべて狂ってしまいます。シアノバクテリアの登場が25億年前だとすると、バクテリアそのものの出現時期も早まってしまうんですよ。
地球生命史の年表が書き換わった瞬間!
ーー生命の歴史そのものが全体的にズレてしまうんですね。 はい。これまでは「地球生命の誕生から間もなくバクテリアが生まれ、その後すぐに酸素発生型の光合成生物が生まれた」、「シアノバクテリアのような生物が光合成生物の祖先であった」と考察されていましたが、それは情報が不足していたために、本来つなげてはいけないものをつなげていたからです。 それに、そもそもシアノバクテリアは細胞の構造がかなり複雑なんですよ。たとえば始原的な光合成をするヘリオバクテリア(下図)という微生物は、ソーセージみたいな単純な構造ですよね。これが何層も重なっているシアノバクテリアのような姿になるまでには、途方もない進化があったでしょう。 また、シアノバクテリア門の中でいちばん古いとされるグロエオバクタの時点では、まだ酸素発生型光合成の形が確定していなかったことが明らかです。構造もそれほど複雑ではありません。前の世代から酸素発生型の光合成遺伝子を受け継いだものの、そのやり方をいろいろ試している段階だったと思われます。 そういう視点から見ても、酸素発生型の光合成はシアノバクテリアの登場よりも前でなければいけません。