なぜ生物は酸素を作り始めたのか。最初に光合成をした生物は?地球生命の共通祖先の姿を追う!
酸素生成型光合成から見たバクテリア生命史
ちなみに、現存するテラバクテリアIは、全光合成生物の共通祖先(下図の☆マーク)から二手に枝分かれしましたが、そのうちクロロフレキシ門、ブルカニミクロビオータ門、ファーミキューテス門などの共通祖先は、図のように、II型反応中心の電子をグルグル回す能力を強化するように工夫して電子が枯渇した地球で生き残ったのだと思われます。 約25億年前に光合成が大量の酸素を発生し始めると、あらゆる電子源が酸化して電子が枯渇しました。そのため、II型をちゃんと強化したテラバクテリアIだけが直系として子孫を残し、テラバクテリアI以外の系統は光合成を失ったか絶えたのでしょう。直系以外で古い光合成を捨て生き残った系統子孫の一部はテラバクテリアI直系のバクテリアから反応中心をもらい直したこともわかりました。 ーーなるほど、酸素発生型の光合成がどのように進化したのか、それがどんな環境への適応だったのか、よくわかりました。25億年ほど前に酸素発生型の光合成が始まり、その機能を磨き上げたシアノバクテリアが12億年前~18億年前に登場した。
光合成機能は何億年前に登場したのか?
ーーでは、酸素非発生型の始まり、つまり光合成そのものの起源はいつなのでしょう? 直接的には誰が光合成の起源だったのかは追うことができませんでした。でも、間接的にそのタイミングのみを追うことは可能です。 というのも、光合成は光エネルギーを捕捉する色素をつくらないと始まりません。ですから、ちゃんと光をつかまえてエネルギーを吸収する色素をつくる遺伝子が初めて出現したときが、光合成の起源だと考えていいでしょう。 そういう仮説を立てて分子時計解析をしたところ、光合成に必要な色素のタンパクをつくる遺伝子が出現したのは、37億年前~32億年前ぐらいだとわかりました。これは、先にお話しした縞状鉄鉱の生成時期と完全に一致します。 ーー酸素が存在しなかった時代に、酸化した鉄がつくられていたんですよね。 はい。分子時計解析にはいくらかツッコミどころもあるので、まだ確定的なことはいえませんが、酸素非発生型の光合成生物が縞状鉄鉱をつくったと考えられる情報が、初めて分子情報から得られました。 ですから、まずその時代に酸素非発生型の光合成機能を持つ生物が登場し、その能力を受け継いだのが、現存する全バクテリアの共通祖先だと考えられます。つまり「ヒト」(ホモサピエンス)の祖先はヒトとなる前に二足歩行を獲得した可能性があるのと同様に、バクテリアの祖先もバクテリアとなる前に光合成機能を獲得していた可能性があります。