昭和の夜汽車を再現! 大井川鐵道「SL夜行」 チケット3分で完売の衝撃、ファンに愛された当日を振り返る
停車時間で魅せるSLの旅
「3分だったんですよ。早くに(席が)埋まるとは思っていたんですが」 大井川鐡道広報担当の山本豊福さん(59歳)が語った。C10形蒸気機関車がけん引する夜行列車の運行が、インターネット上で告知されたのが11月の下旬。客車3両に募集人数が50人だったが、発売開始から3分でチケットは売り切れ、キャンセル待ちとなった。 2022年9月、東海地方を襲った台風15号で大井川鐡道は大きな被害を受けた。大井川本線の金谷駅から千頭(せんず)駅までの39.5kmのうち、途中駅の笹間渡(ささまど)から千頭間19.5kmが、被災から2年たった現在も不通状態である。 路線の復旧と整備をめざすが、主力のSL列車や、子供たちの圧倒的な人気を得た機関車トーマスをデザインした列車も、残念ながら途中駅までの運転となっている。 今回の夜行列車も新金谷から家山までの運行で、走行時間は実質的に30分程度。これを一晩かけて3往復するのである。両駅ではSLの機回し(列車の反対側に機関車を付け替える作業)が行われ、約1時間ずつ停車する。走行時間より停車時間のほうが長いのだ。
夜の新金谷駅
新金谷駅には、20時を過ぎると少しずつ乗客が集まってきた。50人の定員に対して、最終的な参加者は80人前後だったようだ。 今回の列車はひとりで車内の1ボックス、4人分の座席を使えるというもので、料金はひとり1万8000円。人数が増えたのは、この料金で「2人まで」乗車できたためである。これは実に魅力的な設定だった。ガラガラのボックス席でL字型に身を曲げて眠るもよし、友人どうし向かい合い、足を延ばして一夜を過ごすもよし、思い思いに往時の旅のスタイルを楽しめるのである。 「国鉄時代に旅した世代の人にヒットしたのかなあ」 と山本さん。夜汽車に対する需要はたしかにあります、お客さまの期待に応えられればうれしい、と語った。コロナ前には旧型客車を使った長距離列車の再現運転があり、近年も「ナイトトレイン」と称して夕方から夜にかけての客車列車の運行している。さまざまな試行や実績の上での企画なのであった。 そして今回は、6月に就任した鳥塚亮社長(61歳)の下での臨時列車ということでも注目された。千葉県のいすみ鉄道、そして新潟県のえちごトキめき鉄道で手腕を発揮した鳥塚さん。両社でも古い国鉄車両を活用した夜行列車の運転を行っているのである。 乗車前の案内が行われ、スタッフによってチケットと時刻表、そして夕食の弁当が配られた。乗客はやはり年配者が目立ったが、若い鉄道ファンも多く、女性客のグループもちらほら。手続きの終わった参加者に、鳥塚社長が丁寧に弁当を手渡していく。