<政権とメディアの攻防>データで読む安倍政権のテレビ報道対策 逢坂巌
第1次安倍内閣では「郵政反対派復党」をきっかけに、「消えた年金問題」など、マスメディアは政権を激しく批判した。その後も「赤城絆創膏事件」や「原爆しようがない発言」などの閣僚の失言が大量に報じられて、自民党は参院選に敗北。安倍氏は体調を崩し、政権は沈没した。しかし、7年後、状況は全く逆転している。第1次政権では、マスメディアは「安倍はKY」などと揶揄していたが、いまやマスメディアのほうが「KO」寸前。第1次政権期がメディアのターン(攻め時)だったとすると、現在は、帰ってきた安倍政権のターン、アベノターンといえる。 前回の記事では、昨年の衆院選におけるテレビでの選挙関連の報道量が極端に少なかったことをデータで裏付けた。そこで、今回は、それをテレビ報道をめぐる政権とテレビ側の攻防戦として眺めてみる。すなわち、選挙後に明らかになった様々な政権側の「テレビ対策」を報道量の推移に重ねあわせることで、メディアと政権の間で、どのような「交渉」、もしくは「攻防」がおこなわれたかを推測する。
総選挙報道の流れ
政治家とはなにか。政策を決定する人、有権者の代理人など、いろいろな定義ができるだろう。しかし、忘れていけない本質がある。それは、権力闘争のプロフェッショナル、つまり喧嘩のプロであるということだ。 今日のメディア(特に新聞やテレビといったマスメディア)と安倍政権の間に生じている状況は、政権がマスメディアや世論を侮り難い権力であると認識し、喧嘩のプロとしてそれに本気の闘争を仕掛けていることに本質がある。 もちろん、「われわれはテレビに対してこのような攻撃をした」と政権側が明らかにするわけはなく、テレビ局側も「政権に配慮して報道を慎んだ」などと公言することもないだろう。しかし、表面化した動きを時系列としてまとめてデータと重ね合わせることで、1つの推論、すなわち仮説を得ることはできるだろう。
さて、前回の記事で、日本のテレビ(地上波)の総選挙報道に以下のような特徴があることを紹介した。図表1は、これらの特徴をモデル化した図に、今回の総選挙の安倍政権による「テレビ対策」を重ねあわせたものである。 ■総選挙報道の特徴 ・総選挙報道は、解散から公示日までの前期と公示日から選挙日までの後期にわかれる ・後期は12日間、前期は解散日の設定によってその長さが増減する ・前期で選挙の名前や争点など選挙の雰囲気がつくられ、後期は党首の議論や各選挙区での戦いぶりなどが主に報じられる ・前期は比較的自由に報道されるが、後期は公選法上の選挙期間にあたるため報道は抑制的である ・報道量が盛り上がるのは解散日と公示日