“最古の菓子”は必見 お菓子を通して日本の歴史たどる「お菓子のむかしばなし展」
食生活に彩りを添える菓子を通して、日本の歴史をたどる特別展「お菓子のむかしばなし展」が、北九州市八幡東区のいのちのたび博物館で開かれている。古墳の出土品から江戸期の浮世絵まで、人と菓子の深いつながりが分かる資料約200点が並ぶ。12月8日まで。 【写真】“最古の菓子”「松代藩主より御頂戴の菓子」 四つのコーナーを設け昔々のスイーツの物語をひもとく。物語の始まりは日本の菓子の歴史を振り返るコーナーから。ナガレ山古墳(奈良・河合町)出土の土製品は柿の種や豆菓子を思わせる形のものがあり、古代のおつまみを見るようだ。祭祀(さいし)に使われたという。 清少納言「枕草子」に出てくる甘味料、甘葛煎(あまづらせん)も紹介している。ツタの樹液を煮詰めて作り、清少納言は氷にかけたものを「あてなるもの(上品で雅なもの)」と書いている。野趣に富んだ甘さが想像される。 海外からもたらされた菓子は、交流の様子を伝える。鎖国時代のオランダ菓子を描いた国の重要文化財「紅毛人菓子食用異物図」(展示は11月8日まで)は色鮮やかなイラストが目を引く。短いレシピも付いており、長崎・出島のオランダ人が愛した菓子が身近に感じられる。現存する菓子で、年代が分かるものでは最古の「松代藩主より御頂戴(おんちょうだい)の菓子」(寛政年間)はめったに見られない“珍品”だ。 各地で愛されるお菓子や包装紙、製造に使われた木型なども展示する。新型コロナなどの影響で昨年廃業した「藤屋」(北九州市小倉北区)が銘菓「小菊饅頭(まんじゅう)」を作った道具も並び、物語は現代まで続く。 次のコーナーには、和菓子研究家吉田隆一氏が収集した「吉田コレクション」の貴重な資料が並ぶ。 日本で初めて刊行された料理書「料理物語」(1643年)には南蛮菓子「玉子素麺(そうめん)」が載っているが、これは福岡名物「鶏卵素麺」のこと。近世の浮世絵には端午の節句のかしわ餅や、秋の月見団子を作る様子が描かれている。 1853年、日本の開国交渉のため長崎に来港したプチャーチン率いるロシア使節団が、日本側に贈った菓子の記録「(ロシア使節饗応(きょうおう)関係記録)」も展示されている。「カステイラ」「木之実砂糖漬」などの説明とともに「風味絶品」の感想も書かれ、日本人が受けた“衝撃”が伝わる。菓子を入れて運ぶための容器で美しい意匠の「井籠(せいろう)」などにも来場者の関心が集まる。 ほかにもクイズなどで菓子を深く知るコーナー、砂糖や菓子作りの技術、人材が行き来した長崎街道(日本遺産の「シュガーロード」)を紹介するコーナーもあり、日本の菓子の魅力や文化を再発見できる展覧会となっている。同博物館の上野晶子学芸員は「日頃食べているお菓子のルーツを知ることは、日本や海外交流の歴史を知ることにつながります。おいしくて楽しいお菓子の旅を体験してください」と話していた。 (塩田芳久)
お菓子のむかしばなし展
特別展の入場料は大人800円(常設展とのセットは1200円)、高大生600円(同900円)、小中生100円(同340円)。同博物館=093(681)1011。