K―POP鳴り響いた韓国デモ…勇ましさだけでない新鮮なギャップ 心待ちにした日本旅行より優先した参加者も
3日夜の「非常戒厳」宣言を皮切りに混乱が広がる韓国は、民主主義を憂える市民の動きと声が勇ましく、すさまじい。国会が尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を採決する本会議を開いた7日、ソウル・汝矣島(ヨイド)の国会議事堂前に市民約15万人が集結した。 【写真】ペンライトやプラカードを持って声を張り上げる市民たち 「即刻弾劾」のプラカードを持っていたソウルの大学1年の女性(22)は、8年前の冬、時の朴槿恵(パククネ)大統領の退陣を求め、ソウル中心部の光化門(クァンファムン)広場に立ったという。「大事な瞬間だから」と父親に連れられ、青瓦台(当時の大統領官邸)に向かって「ノー」を叫んだ。 非常戒厳の宣言直後、国会には一時軍隊が突入した。阻止しようと、国会議員や市民が深夜にもかかわらず、すぐさま集結。彼女も、国会に軍隊が入り、民主主義による政治が封鎖されることを心配して、国会を背にして立った一人だ。 その兵隊たちは、携帯する銃に実弾を込めていなかったことなどが後で報道された。ただ当時の彼女は、そんなことは知らずに真剣だったという。軍が市民などに不当に圧力をかける歴史は繰り返しうる、と。 ノーベル文学賞を受賞した作家ハン・ガンさんの著書「少年が来る」の内容にも触れながら、彼女は韓国の民主主義を「傷つきながら、死にながら、勝ち取ったもの」と表現した。 彼女に限らず、声を上げる若者は多い。民主化以降に生まれた世代なのに、歴史を深く理解しているようだった。いつ、何が起きたという知識で終わらず、その意味を体の奥底に落とし込んでいる感じがした。自分事として捉える意識の高さが、言葉の一つ一つににじみ出ていた。 一方で、韓国のデモは確かに楽しい。流行のK-POP曲が次々にかかり、歌い、踊り、曲に合わせて「弾劾」をコールする。ろうそくや推しのアイドルグッズのペンライト(応援棒)が一斉に揺れると、コンサート会場そのもの。そのギャップは新鮮だった。 手足の指先の感覚がなくなるほどの寒い夜空の下、色とりどりの明かりが飛び交う光景は幻想的でもあった。大画面に映し出されてポーズを決める若い女性、歌詞を間違えながら大声でK-POPを歌う中年男性、丸々と服を着せられて連れてこられた幼児…。民主主義を守ろうとする一人一人の姿があった。 国会前で最後にしゃべりかけた女性(30)は、私が日本人と分かると予定していた日本旅行について教えてくれた。愛知県長久手市にあるジブリパーク訪問を心待ちにしていた、と。デモのために旅行はお預けにすると言い「トトロに会えないのが惜しい」と嘆いていたが、「自分が行動するんだ」という意識の高さに驚かされた。デモは今日も各地で続いている。(釜山・平山成美)