「おひとりさま」で末期がんと…医療ジャーナリストが体当たりで描く新時代の「闘病記」が示す希望
『末期がん』…もし「余命宣告」を受けたら?
もし余命宣告を受けたら?――自分がどうなるのかといった想像すらできない人が多いのではないか。しかし、それを真正面から受け止め、受け入れ、治療をしながら普通の日常を送り、仕事をし、終活準備をする様を赤裸々に綴った闘病記がある。 【同じ著者が……】なぜ人は「貨物列車に乗りたい」のか…貨物列車の添乗記を執筆した意外な訳 長田昭二さん(59歳)の『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(文春新書)だ。これは「文藝春秋電子版」の連載『僕の前立腺がんレポート』を大幅に加筆・再編集したものだが、闘病記は数あれど、この本の特異な点は、著者の長田さんが病を、治療をよく知る医療ジャーナリストだということ。 実は長田さんは筆者の15年来のライター仲間で、医療ジャーナリストの先輩で、飲み仲間で、自身が闘病中でありながら、新宿三丁目駅の階段を踏み外して転がり落ちる筆者を見て、「僕より先に逝くのではないかと思いました」と心配してくれた友人でもある。 そんな長田さんとは闘病中も何度も酒を飲み、パフェを一緒に食べ、こうして取材で向き合った今も変わらず元気そうに見えるだけに、「末期がん」という言葉がピンとこない。だからこそ、書名にギョッとする。 「タイトルは編集部でつけたんですよ。“末期がん”という言葉は、医療者も我々医療ライターも基本的には使わないんです。 でも、このほうが読者にはわかりやすいということもありますし、一般のがん患者さんに向けて使うと非常に失礼な言い方になってしまいますが、僕自身のことなので良いだろうと。 ただ、『大丈夫』とあるけど、本当は全然大丈夫じゃないわけですよ(笑)。見た目が元気なだけで」 “末期がん”というと寝たきりの状態を思い浮かべる人も少なくないだろう。しかし、長田さんは家事を全て自分で行い、仕事も続け、海外旅行も楽しんでいる。 「末期がんといっても、がんの種別によって病状や進行は大きく違っていて、僕が患う前立腺がんは痛みさえ出なければ元気で過ごせるんですよね。 さらに進行すると、いずれ痛みが出ますし、そうなると動けなくなると思うんですよ。今は左肩と右顎の痛みがあり、痛み止めの薬で痛みを散らしている状態。 がんによる症状はそれぐらいで、あとはちょっと走ると息切れしたり、抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けたり、がんの進行を遅らせるために受けているホルモン治療の副作用で骨粗しょう症になるので、それを抑えるための注射薬の副作用が出たりしている感じです」 ◆忙しさを理由に「検査」を後回しに… 長田さんと前立腺がんとの付き合いは、’16年8月から。きっかけは、炎天下に趣味のランニングを終えて帰宅した後、真っ赤な尿を確認したこと。近所の内科医院を受診して血液検査を受けたところ、これは血尿ではなく脱水によるものだったのだが、念のために行った血液検査で気になる所見があった。 前立腺がんの腫瘍マーカー・PSAの数値が3.5と、前立腺がんの可能性が高いと判定される4.0には至らないものの、正常値の中では極めて高い数値だったのだ。 どの病気でも「早期発見・早期治療」が肝心であることは、医療ジャーナリストでなくとも、誰もが知ること。しかし、長田さんは忙しさを理由に検査を後回しにした。人前で生殖器をさらけ出すことへの抵抗感もあった。 そんな中、’20年1月に今度は本当に血尿が始まり、2月に膀胱鏡検査、さらに前立腺の組織を採取する生体組織検査を受け、前立腺がんが発覚した。