政界を揺るがした捜査のきっかけは、1人の「教授」の執念だった 自民党の派閥裏金事件 「政治とカネ」告発し続ける原点に特攻隊員の悲劇
神戸市中央区の人工島ポートアイランド。その一角に、神戸学院大のキャンパスがある。昨年12月中旬、頭にバンダナを巻いた上脇博之教授が柔らかい笑顔で出迎えてくれた。バンダナ姿は学生時代から変わらないという。 【写真】拘置所に向かう田中角栄氏 昔はもっと国会議員を捕まえていた、東京地検特捜部
この人が、東京地検特捜部がメスを入れた自民党派閥裏金事件のきっかけになったとは、すぐに結びつかない。事件は安倍派や二階派への家宅捜索、現職国会議員の逮捕・起訴にまで発展した。昨年末から政界を大きく揺るがし、いまだに派閥の解消を巡る議論が続いている。 第三者である上脇さんが刑事告発をするのは、これが初めてではない。およそ四半世紀もの間、「政治とカネ」について告発し続けてきた。口で言うのは簡単だが、実際は膨大な資料を読み込み、分析して疑惑を見つけ出すという地道な作業の繰り返し。大学での講義や自身の研究で多忙であるにもかかわらず、この作業を長年続けてきた。上脇さんを突き動かす原動力は何なのか。(共同通信=力丸将之) ▽記者の資料に「直感が働いた」 一連の裏金疑惑のはじまりは昨年10月、「しんぶん赤旗」が自民党派閥の政治資金収支報告書の問題を報じたことだった。上脇さんは赤旗の記者からコメントを求められた際、収支報告書などの資料を見せられた。
政治資金規正法は、パーティー券を1回で20万円を超えて購入した企業や個人の報告書記載を義務づけている。だが見せられた報告書は不自然だった。派閥名の後に議員名を括弧書きしたものがある。 収支報告書を長年、見てきた上脇さんは直感的に思った。 「事務上のミスはあり得ない」 この記載の意図は、どの議員がパーティー券を売りさばいたかを明確にすることだと考えた。そこで各議員が管理する政治団体の収支報告書を見ると、パーティー券の購入額をまとめて一括して記載している団体もあれば、何回にも分けて記載している団体もある。後者は、20万円を超えないように分けて記載することで、購入者や購入企業名を出さないようにしているのではないか。不適切な会計処理をしている可能性がある。上脇さんは考えた末、こんな結論を導いた。 「組織的に悪質なことをしているとしか思えない」 そこから、気の遠くなるような作業を開始した。