世界遺産で化石燃料採掘が大幅増化。119億トンもの二酸化炭素の排出見込みに研究グループが警鐘
今後数十年の間に、ユネスコの生物圏保護区や世界遺産で化石燃料採掘が70%以上増加し、119億トンの二酸化炭素が排出される見込みであるという驚くべき試算が明らかになった。 調査をしたのは、気候変動の危機に対処することを目的としたドイツの研究グループ、「Leave it in the Ground Initiative(LINGO)」。報告書は、10月21日にコロンビアのカリで始まる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に先立って発表された。 「Extraction at Any Cost(どんな犠牲を払ってでも採掘)」と題されたこの報告書によると、少なくとも21のユネスコMAB生物圏保護区と世界遺産が現在、活発な化石燃料採掘による脅威にさらされており、さらに15の保護区がその計画段階にあることが判明した。 その中でも、特に大きな開発プロジェクトは、アラブ首長国連邦のアブダビにあるマラワ生物圏保護区の170億ドル(約2兆5439億円)をかけた海底開発プロジェクト「ヘイル・アンド・ガシャ」だ。4年に一度の世界自然保護会議が2025年10月に開催されるが、その開催国に同国は選ばれている。国際自然保護連合(IUCN)が開催する同会議は、絶滅の危機に瀕した生態系を保護するための大規模な取り組みを目的に、190カ国が集まって世界的な枠組みを議論する予定だ。 ユネスコはそれらの脅威に手を打っていないわけではない。2013年に制定地域への「進入禁止」の公約を定め、2022年には一連のガイドラインを発表した。それにもかかわらず、各国や企業は公約やガイドラインを守っていない。その理由は、ユネスコには管轄権が無く、各国政府の判断に委ねられているためだ。 「Extraction at Any Cost」の著者たちは、石油・ガスプロジェクトの拡大は、産業を「フル稼働」させ続けることで気候変動と生物多様性の危機を助長し、「化石燃料を速やかに段階的に廃止」するための保全努力を台無しにしていると批判している。研究者であり報告書の共同執筆者であるアリス・マクガウンは「2030年以降も国有企業が保護地域での掘削を準備していることは憂慮すべきことです」と嘆いた。(翻訳:編集部) from ARTnews
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