「執筆は人生を支えてくれた小説への恩返し」 メフィスト賞作家・岡崎隼人さんが18年ぶり新作に込めた思い
2006年、講談社のエンターテインメント小説の新人賞「メフィスト賞」を受けた「少女は踊る暗い腹の中踊る」で鮮烈なデビューを飾った岡崎隼人さん(38)=岡山市=が、2作目となる「だから殺し屋は小説を書けない。」を出版した。実に18年ぶりとなる新作は「自分の小説愛を込めた、ある意味自伝的小説」という渾身(こんしん)の1作だ。 西尾維新さん、辻村深月さんら人気作家を輩出した同賞。受賞は話題を呼び、デビュー後すぐ2作目に着手したが、待っていたのは「強烈なスランプ」だった。「突然、自分の書く物語が信用できなくなった。書きたい気持ちがあっても書けず、無理やり書こうとしたが、当然、良いものはできなかった」 それでも執筆への思いはやまず、作劇と文章の修業に打ち込んだ。脚本や創作術の本を大量に読み込むとともに、小説や映画、漫画などあらゆる物語の構成を分析して粗筋を100字、500字、千字でまとめるといった作業をひたすら繰り返した。少しずつ状況が改善し、1年ほど前に新著の構想が浮かんだという。 主人公は、伝説の殺し屋「和尚」に拾われた青年雨乞(あまごい)。和尚に服従を誓い、同じ殺し屋として生きる雨乞の秘密は、小説を書くこと。瀬戸内の小島で殺しの任務に就くが、ターゲットの駐在警察官は思わぬ人物だった―。 殺人マシンとして育てられながら1冊の小説に感銘を受け、執筆に没頭する雨乞。物語の冒頭で、意味のない言葉の羅列しか書けなかった彼は、敬愛する小説家椿(つばき)依代(よりしろ)と出会い、和尚や同僚の殺し屋、自分自身の罪と向き合うことで、小説の根本を理解していく。その姿は「小説は人間が創作する物で一番素晴らしいもの」と信じる岡崎さん自身の投影でもある。 「小説は、孤独感、罪悪感が強い自分の師となり家族となって、幼いころから繰り返し救ってくれた。執筆は人生を支えてくれた小説への恩返しでもあるんです」。文芸文化を盛り上げるとともに、自分の小説が誰かの読書の入り口になり、さらに面白いと思ってもらえればそれ以上の喜びはないという。 「作品が形になり、やっと息ができていると感じる。3作目は書店を舞台にしたホラー。今度は、18年もお待たせすることはないと思います」 「だから殺し屋は小説を書けない。」は講談社刊、2090円。 (まいどなニュース/山陽新聞)
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