台風予測の番人、実測値で真の姿観測 小型機で「眼」に貫入飛行 気象学者・坪木和久さん『激甚気象はなぜ起こる』
【BOOK】 小型ジェット機で台風の眼(目)に飛び込み観測を続けている気象学者・坪木和久さん。本作はその実際と、激甚気象現象のメカニズムを数式なしで説く気象学のバイブルにして防災の指南書である。 ◇ ――4年前の発刊後、今も多くの人に読み継がれている。気象への関心が高まった証しです 「日本は台風や地震、豪雨・豪雪、猛暑などが頻発する自然災害のデパートメントストア。ユーラシア大陸の東端で太平洋西端の中緯度にある日本付近は寒・暖の空気がぶつかり合い温帯低気圧が発生しやすい場所ですし、台風や熱帯低気圧は梅雨前線や秋雨前線を刺激し大規模災害を引き起こす。近年温暖化に伴い大気中の水蒸気量が増え、災害は激甚化しています」 ――そうですね 「とはいえ私たちの精神構造の根底には荒ぶる自然への畏敬・畏怖があり、被害からの復興の原動力となるのは他者への思いやりと協調です。『古事記』には野分(台風)が出てくるし、<行く河の流れは―>で始まる鴨長明の『方丈記』は3分の1が災害の記録。災害は身近な存在なのです」 ――近年の異常気象との折り合いがますます難しくなっています 「本を執筆中の2018年7月、台風17号と梅雨前線による西日本豪雨(「平成30年7月豪雨」)が起き、死者・行方不明者は232人。またか、と歯ぎしりしました。台風で死者を出さないためには予測精度を上げること。改めて航空機観測で真値を取る大事さを痛感したのです」 ――というと 「気象学はサイエンスであり、知識や技術を社会生活に還元する実学です。物理学者・寺田寅彦の言葉『天災は忘れた頃にやってくる』を自身の著書で紹介した中谷宇吉郎先生は、私が学んだ北大・低温科学研究所の創設に尽力され、私の恩師の菊地勝弘先生からは『基礎研究は必ず役にたつ』という中谷先生の実学のススメを何度も聞かされた。この言葉は私の座右の銘となり、密かに寺田・中谷両先生の孫弟子の末席ぐらいには座らせてもらっていると自負してもいる。だからシミュレーション研究でリアルに近い台風を再現できても本当にそうか、実測値を取らないと真の台風の姿はわからないぞと自問自答しているんです」 ――台風予測の現在は