いまだ犯人逮捕されず…実際に銀行の支店で検証した「三菱UFJ元行員が他人の貸金庫を勝手に開けた犯行の手口」
スペアキーを見てみた
今回の事件でも犯人は、銀行が保管しているスペアキーを使って契約者のボックスを開けたとされている。しかし、スペアキーは封筒に入れて割り印をした後、閉じられていた。犯人の女性営業課長は貸金庫の管理責任者でスペアキーの保管場所には自由にアクセスできたようだが、果たして封印されている封筒からスペアキーを取り出すことは可能なのか。 それを知るためには、現物を見るのが一番。 そこで、カウンターで「自分の金庫のスペアキーがどうなっているか見せてほしい」と依頼してみることにする。担当者に身分証明書、預金口座の情報を伝えると、しばらくして現物をもってきてくれた。 出てきたのは上下20cm幅10cm程度のごく普通の封筒。裏面には契約者本人の名前や住所が自筆で記入されている。癖のある悪筆。間違いなく自分の字だ。中身は見えないが、触った感触から恐らく鍵が入っているのがわかる。封筒の上下左右、くまなく確認したが、切断や開封の痕跡など不審な部分は見当たらない。ひとまず安心だ。 では、犯人はこの封印されている封筒からどうやってスペアキーを取り出したのか。 開封部ののりを慎重に剥がせば開封出来るが、元に戻す際には割り印にズレが生じるだろう。しかも、そんな作業を銀行内でできるはずがない。自宅に持ち帰ったとすれば、そんなことが簡単にできたこと自体が大問題だ。 一旦開封した後、新品に交換し、割り印も偽造した可能性はどうか。定期点検でも印鑑が本物かどうかまで確認していないだろう。だが、これも可能性は低い。 記者のスペアキーが入った封筒もそうだが、年月が経って色褪せていた。新品に交換すれば、一目で違和感に気づくはずだ。裏面のサインも犯人自身が書けば、定期検査で不審が発覚すれば、すぐに筆跡で特定されかねない。そんな迂闊なことをするだろうか。
対応は十分か
だとすれば、犯人は割り印を押した部分とは違う場所を切り開き、綺麗に元に戻したというのが、最も可能性が高いのだが……。 そこまで推理を巡らせていたところで、ふとあることに気づいた。 会見で銀行側は「支店で管理する方法を改めて本部で一括管理する方法に変えた」と言っていたではないか。それがまだ支店にある。これはどういうことか。 会見ではスペアキーを支店で管理していたことが犯行のひとつの要因になったと認めていながら、その対策もすぐにやっていなかったとすれば、どこまで再発防止に本気なのか、やや疑問だ。 実は、銀行の対応についてはもう一つ疑問に感じていることがあった。 会見では「貸金庫の契約者のための専用コールセンターを設置して不安に答える仕組みを作った」と言っていた。しかし、同行のホームページを見ても、それらしきものは見当たらなかった。 よくよく調べてみると、過去のニュースリリースに問い合わせ先の電話番号を見つけることができたが、ここまで手間をかけないとわからないところにしか書いていないというのは、あまり誠実な対応とは思えない。本気でお客の不安に応える気持ちがあれば、トップページに大きな文字で連絡先電話番号を書くのではないか。 ちなみにトップページの重要なお知らせの一番に上にはこう書かれている。 「当行貸金庫取引を装う不審な電子メールにご注意ください」 自行の行員による犯罪についての詳細説明やお詫びよりも、他人の犯罪への注意喚起を優先しているということだろう。ほとんどブラックジョークとしか思えない。 残念ながら、三菱UFJ銀行の信頼回復への道のりは険しいものになりそうだ。 合わせて読みたい。【貸金庫から十数億円を盗み出し…三菱UFJ元行員の調査が難航している「意外なワケ」】
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