父から子へ“想い”を込めた事業承継だったが…まさかのトラブルを呼び込んだ「持株会社化」の落とし穴【税理士が解説】
今回の主人公は、生活用品を扱う小売店を複数運営するN社の代表取締役である永井さん(仮名・65歳)。父から会社を引き継いで30年が経ち、長男に事業承継することを決意しました。しかし、承継を実行した1年後、税務署から1本の連絡が……。その先にいったい何が待っていたのか、顛末をご紹介します。 都道府県「開業率&廃業率」ランキング
(※本記事で紹介する事例はフィクションです。) 永井さん(仮名)は現在65歳。生活用品を扱う小売店を8店舗運営する創業50年のN社の代表取締役を務めている。N社の創業者は永井さんの父であり、永井さんは2代目としてN社を引き継いでから今年でちょうど30年。「天国の父にも胸を張れるほどやり切った」。そう思った永井さんは後継者である息子への事業承継を決意。そこには大きな落とし穴が待っていた。
競合の出現による経営危機…父のピンチを救うためN社に入社
N社の創業の地は千葉県浦安市。約50年前の浦安は住宅の開発、道路の整備が積極的に行われていた。「この町には人が集まる」といち早く感じた永井さんの父は生活用品を扱う「永井商店」を開業した。 すぐに地域にとって欠かせない存在となった永井商店は法人化。「N社」として新たなスタートを切った。数年後には2号店、3号店を出店するとともに、在庫を保管する大型倉庫を建築。積極的な事業拡大が功を奏し、N社は創業から10年で業績をぐんぐん伸ばした。 創業から15年が経過、4号店の新規出店、都内進出も視野に入れていたところに強力な競合が現れた。「100円ショップ」である。近いうちに近隣に進出してくるという噂を聞き、N社は新規出店などを見送ることにした。 ついに100円ショップが進出。アイテム数は凌駕され、価格面でも優位性をとられた。あっという間に顧客が離れ、15年間で積み上げた純資産は底をついた。「もはやこれまでか」。永井さんの父は自信を失っていた。 そんな父の姿を見た永井さんは一念発起。自分を育ててくれた父、学生時代から愛着のあるN社のため、新卒で就職した都市銀行を退職してN社に入社。まずは銀行時代の経験・人脈を活かして運転資金を調達。大幅なコスト削減のほか、販路拡大にも大きく貢献した。