歩くだけで生活習慣病、うつ、認知症の予防に。注目の生理活性物「マイオカイン」のさまざまな効果を医師が解説
厚生労働省の「令和4年 国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の1日の歩数の平均値は男性が6465歩、女性が5820歩で、直近10年間で減少したそうです。そのようななか、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長の伊賀瀬道也先生は「歩かない生活を送ることは、年をとると歩けなくなることに直結する」と指摘します。そこで今回は、伊賀瀬先生の著書『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』から、いつまでも歩ける人になるための心がけを一部ご紹介します。 【表】歩くことによって骨格筋から分泌されるマイオカイン、身体に与えるメリットは多い * * * * * * * ◆歩けばうつや認知症を予防できる 健康を全身に届けるマイオカイン 歩くと、脂肪を燃やして肥満が解消され、糖尿病などの生活習慣病の対策になることが知られています。 そればかりか、うつや認知症といった脳神経に関連する疾患の発症も予防できます。 これらに関しては、近年、科学的なメカニズムが明らかになってきました。 体を動かすと、筋肉のポンプ作用で血流がよくなり、心肺機能が高まります。 そして、エネルギーを消費し、老廃物が排出されやすくなるのです。
◆いま、マイオカインが注目を集めている 運動するメリットはそれだけではありません。 最近の研究から、骨格筋は体を動かす筋肉であるだけではなく、「マイオカイン」と総称される生理活性物質(サイトカイン)の分泌器官でもあることがわかってきました。 代表的なマイオカインには何があるでしょうか。 それをまとめたのが上の表です。 ちなみに、「マイオ」はギリシャ語で「筋」、「カイン」は「作動物質」という意味です。 歩くことによって骨格筋が収縮・伸展をくりかえすと、マイオカインが骨格筋から分泌され、血液に乗って全身に運ばれます。 そして、マイオカインは、脳などの中枢神経系にさまざまな代謝ストレスの状況を伝達するのです。
◆アルツハイマー病の改善に効果がある このことから、アルツハイマー病の患者さんが歩くことで認知機能に改善がみられるのは、マイオカインの分泌量の変化が根底にある可能性が示唆されています。 歩くことは、アルツハイマー病を発症しにくくするだけでなく、すでにアルツハイマー病を発症した患者さんの認知機能にもプラスの影響を与える可能性があるのです。 マイオカインは脳ばかりではなく、肝臓、血管、脂肪細胞などの全身の臓器に影響を与えることがわかっています。 女性ホルモンの「エストロゲン」や、男性ホルモンの「テストステロン」などの性ホルモンの一部も、マイオカインとして筋肉から分泌されます。 また、うつ症状を抑えたり、脂肪を燃えやすくしたり、がん細胞の増殖を抑制したりすることにも関連するものがあります(「アプライド・フィジオロジー・ニュートリション・アンド・メタボリズム」2020年)。 ※本稿は、『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
伊賀瀬道也
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