目指すは“グローバルOne調達” オリンパスが加速させるSCM組織の改革
能登半島地震後に迅速にサプライヤーを切り替え
こうした課題感からオペレーション改革に着手するため設置されたのがCMSOだ。2022年に役職が設置されてからまだ数年だが、先述の課題について小林哲男氏は「かなり改善が進んでいる」と評する。 具体的な成果として挙げたのが、2024年1月に発生した令和6年能登半島地震後のサプライチェーン混乱への対応だ。オリンパスは製品の1次、2次サプライヤーと代替サプライヤーのネットワークをグローバルで把握、管理している。同社 調達機能長 シニアバイスプレジデントの小林陽一郎氏は「震災発生後すぐに、2次サプライヤーの部品供給に問題が生じることが分かった。そこで調達ネットワークのシステムを管理する米国メンバーが、代替サプライヤーを地域を問わずグローバルで探した。最終的には福島県のサプライヤーに緊急で増産を依頼することになったが、付き合いのあるサプライヤーをすぐに把握できる環境があったのは大きい」と振り返る。 ただ、医療機器の部品サプライヤーの代替化は容易ではない。このため、調達部門では代替化が難しく高度な技術を持つサプライヤーと、年に一度、オリンパス経営陣が直接対面するなど関係構築を重視して取り組んでいる。 オリンパスは調達体制の在り方について、「Global One Procurement」(グローバルOne調達)の実現を目指している。日本や米国、欧州など地域ごとの調達課題に各地域の専任メンバーが対応するのではなく、グローバルでメンバーが相互にサポートしあう仕組みを構築している。またサプライヤー情報も地域の分け隔てなくグローバルで共有するため、「特に医療機器部品については、仮に日本で良いサプライヤーがいれば、米国や欧州の拠点でも積極的に取引をしよう、という姿勢で臨んでいる」(小林陽一郎氏)とする。今後、実現に必要なITシステムをグローバルで導入することを目指す。
修理サービスはグローバルで同等の品質目指す
小林氏はサプライチェーン横断でQCD向上や拠点間ネットワークの最適化などに取り組んでいる事例として、オリンパスにおける修理サービスの改革を紹介した。 修理サービスはオリンパスの事業において一定の存在感を持つ。同社の2024年3月期の売り上げが9362億円であるのに対して、修理サービスの売り上げは約2000億円で、全体の約20%を占める。年間で約50万件の修理、メンテナンスを実施している。 修理サービスの提供形態は、導入先の医療施設とオリンパスの修理工場で行う2つのパターンがある。医療施設で実施する場合は、医療機器の取り扱い説明や保守点検、現場での修理作業が中心になる。修理工場で実施する場合は、顧客から故障の報告があった機器に対して分解、診断、適切な修理を行う。 取り扱う製品の数は約4000製品で、1製品当たり200点以上の部品で構成されている。このため、現時点では訓練された技術者による精密な作業が求められる。内視鏡などでは「使用先の臓器ごとに製品の求められるスコープの長さや曲がるアングルが異なる」(小林哲男氏)ため、部品点数の多さや修理工程の複雑さを生む要因になっているようだ。将来的には修理の自動化なども視野に入れる。 現在、修理拠点はグローバルで約100拠点ある。10年前は約200拠点あったが、適切なプロセス管理、品質管理を効率よく展開できる規模感を検討し、時間をかけて集約してきた。グローバル全体で同等のサービス品質を担保するための管理体制を構築し、継続的に各地域の修理サービスの品質評価とフィードバック、改善を実施している他、教育システムの面では資格保持者のみが修理を担うグローバルライセンス制度を導入するなどの取り組みを進めている。 今後の展望として小林哲男氏は、「日本発のモノづくり企業である強みとして、丁寧な仕事やエンドユーザーへの思いやり、現場の一体感を持ちつつ、グローバルに戦っていくため人材面では海外人材の登用を進めるなどダイバーシティを進める」と説明した。
MONOist