日本の製造業が生き残り、資源循環型の経済を実現するためには
新宅 純二郎(明治大学 経営学部 特任教授) 日本の国内製造業がどのように競争力をつけてきたのか、今後、どのような成長シナリオを描けるかについて、さまざまな産業で調査してきました。国内製造業が生き残り、強くなり、さらにはSDGsを達成していくためには、どこへ向かっていくべきでしょうか。グローバルサプライチェーンとの関わりも含めて考えます。
◇国内製造業は、強い分野に集中することで生き残り、輸出を伸ばしてきた 国内製造業は、1990年代以降、円高によるコスト高や海外の安いものづくりとの厳しい競争にさらされてきました。それでも生き残ってきた国内企業は、逆境のなかで、実は競争力を高めてきました。昨今では、環境が大きく変わり、円安が追い風にもなっています。貿易赤字が喧伝されていますが、これはエネルギー価格などが上がり、輸入額が膨らんでいるため。実際のところ日本の輸出額は過去最高で、製造業の輸出は好調です。 たとえば鉄鋼業は、1980年頃にピークを迎えたと言われていますが、量的には今も横ばいを続けています。生産している鉄の4~5割は輸出品となり、グローバル市場で高い競争力を保てているからです。韓国や中国、インドといった後発の競争相手が追い上げてくるなか、汎用的な建築用の鉄からは撤退し、特殊な構造の産業用の鉄など、日本の鉄鋼業にしかつくれないような付加価値の高いものに特化してきた結果です。つまり低価格競争から抜け出し、日本の強みである技術力を活かせるところに集中することによって生き残り、その分野で世界トップになってきたのです。 日本の製造業の競争力を語るためには、「鉄鋼業」といった大ぐくりのレベルではなく、もっと細分化された特定分野に目を向けないと、その強みはわかりません。繊維産業でも、造船業でも、産業全体では他の国に競争力を奪われていきましたが、特定分野で世界のトップを維持している企業はいます。 製造装置や材料といった裏方で強みを発揮している産業もあります。液晶産業でいえば、1990年頃、産業用の液晶パネルは日本シェアが100%でしたが、2002年には、韓国や台湾に逆転されました。しかし、いまだに日本の中に世界トップの企業が何社かあります。それはパネルそのものではなく、液晶パネルをつくるための製造装置や液晶材料、視野角を広げるため画面に貼る特殊なフィルムなど。すなわち装置や材料の分野は今も強いものの、それらを使ってつくるパネル製造の分野で負けてしまっているというわけです。 負けた理由の一つは、そういった良い装置や材料が、韓国や台湾の企業にも売られていたからです。それらを買えば、比較的早く、産業を起こすことが可能でした。しかしそうはいっても、製造装置は非常に高額になります。それに対する税制や償却の優遇措置が、韓国や台湾にはあったのです。私の仲間が試算したところ、同じ3,000億円の投資をしても、日本と両国とでは実質的なコストが1,000億円ぐらい違ってきます。国の制度の差は、逆転された要因として決して小さくはありません。 太陽光パネルも日本が先頭を走っていましたが、今は中国が世界一です。リチウムイオン電池も日本発だったのに、電気自動車も中国がシェア1位。いずれも設備投資のかかる産業です。中国では、産業を育成していくための優遇措置が手厚く、日本の補助金と比べものになりません。よく「技術で勝ってビジネスで負ける」という言い方をされますが、経営の側面だけではなく、国の施策や制度まで含めて負けたといえるでしょう。