日本の製造業が生き残り、資源循環型の経済を実現するためには
◇製造業が循環型の経済サイクルを構築することは、国際的にも大きな課題 一方で、地球環境の問題をはじめとするSDGsの観点から、資源循環型の経済システムの構築も求められています。現在、私は経産省のプロジェクトとして、資源循環型のアパレル産業のあり方について、調査しています。しかし、資源循環システムを実現するには、古着の回収、分別と再生、環境配慮型の設計、販売方法、消費者意識の育成など、多くの問題を抱えています。 アパレル産業では、今も膨大な量の売れ残った製品が捨てられ、燃やされています。一度、消費者の手に渡ったものも、一部は古着として売られていますが、ほんの一部です。発展途上国に古着を送るプロジェクトなどもありますが、有効利用されているかどうかはわかりません。 またペットボトルであれば、比較的容易にリサイクルできるのですが、衣料品を原料に戻してつくり直すのは大変です。ポリエステル100%ならやりやすいものの、綿などが混ざっていると、何かしらの方法で分別する必要があります。薬をかけながら分けて再生する技術も少しずつ確立されつつありますが、社会的に広めていくためには、回収量もラインも拡大しなければなりません。 さらに、できた糸が使われることも重要です。たとえば再生材でつくられた綿は、真っ白にはなりません。再生させるためのコストもかかっているので、上乗せで料金も高くなる。地球環境のために買おうとか、逆にこの色合いがオシャレだとかいった認識が社会に広まっていかなければ、リサイクルは成り立たないのです。 さらにグローバルサプライチェーンが複雑化している現状を考えると、資源循環型のビジネスモデルを構築するのは容易ではありません。アパレル産業でいえば、今、国内で販売される衣料品の数量の97%が、中国やその他海外で縫製されて入ってきています。諸外国ありきの製造工程に頼らず国内で完結しない限りは、資源を再利用する循環経済システムをつくるのはハードルが高いと言わざるを得ません。 今後は、あらゆる産業で資源循環型経済の構築が求められていくでしょう。身近なアパレル産業でこの問題を考えることは、多くの人々の意識を高めていくうえで重要であると考えています。また、今回お話した鉄鋼業やアパレル産業を含め、製造業は、よりサスティナブルな体制を築くために、グローバルサプライチェーンの組み直しまで視野に入れて、その在り方を考えていく時期にさしかかっています。この先、どういう取り組みをして実質的な成果を上げていくべきか。日本の製造業はもちろん、日本という国全体が問われています。
新宅 純二郎(明治大学 経営学部 特任教授)