マネックス松本会長に聞く、2025年アメリカ株式市場の行方
祖業の証券子会社の49%の持ち分をNTTドコモに売却。12月11日にアメリカのナスダック市場に上場した暗号資産子会社コインチェックグループを成長の柱に据えるマネックスグループ(8698)。同社の創業者で独自の市場分析に定評のある松本大会長に、2025年のアメリカ株式市場の見通しを聞いた。 ■2025年はトランプ政権の動向次第 ーー2025年のアメリカ株。注目すべきセクターはどこですか。 松本:2025年は、なんといってもトランプ政権が何をやるかにかかっている。予測できない部分が多いが、これまでに繰り返し言っていることは案外クリア。まずは輸入関税引き上げ。ドルを安くしたいとも言っている。これは一貫している。ドルを安くすれば海外のものが高くなるから、輸入しにくくなるし、関税を高くしても同じことになるので、政策効果は同じものだ。目指しているのは輸入しにくくして、アメリカ国内に雇用機会を創出していく、ということだ。 本当に関税を引き上げるかどうかはわからないが、真剣にドル安政策を進めていくことは間違いないだろう。トランプ氏はポピュリストですから国民に受けるような財政支出も進めていくはず。ドルをたくさん刷るわけなので、そうするとインフレ傾向にもなる。 悪性インフレを避けるために短期金利を低く抑えようとするものの、長期金利は上がっていくので、トランプ政権下ではイールドカーブが立つようになる。だから、非常にシンプル。2025年に注目すべき第一のセクターは銀行株。シティグループ( C )、バンク・オブ・アメリカ( BAC )などの金融機関が大きな恩恵を受けるだろう。 ーートランプ政権に深く食い込んでいるイーロン・マスク氏の与える影響も大きそうです。ハイテク株にとっても追い風ですか。 松本:ハイテク大手のマグニフィセント7の経営にとっては、基本的にプラス。民主党政権ではアメリカ連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長に代表されるように、規制を強化する政策が目立った。トランプ政権では、規制を緩和するでしょう。 だけど、IT関連株はすでに随分買われているので、ここからさらに上がっていくかというと、ちょっとわからない。さらに、規制緩和という追い風はあっても、関税引き上げによって調達面では大きな逆風になることも考えられる。ちょっとどう転ぶかはわからない。そうすると確実に恩恵を受ける銀行株のほうがいい。 ■トランプ氏が狙うハッシュパワーの覇権 ーー暗号資産にとっても追い風が吹きそうです。 松本:トランプ氏は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)をやらない、と発言している。民間のステーブルコインなどを使えばいいということを明確に言っているので、クリプト(暗号資産)業界にとって強力な追い風だ。 新政権はビットコインのマイニングなどにも積極的になるだろう。大きな電力を食うなどマイニングへの反対意見も強いが、中国はここに力を入れている。計算速度である「ハッシュパワー」は重要なのに、この分野でアメリカが先頭を走っている状態ではなくなってしまった。ここにトランプ氏は危機感を持っている。 安全保障や防衛といった観点からみても、トランプ氏と共和党はハッシュパワーにおけるアメリカの覇権を確固たるものにしようとしている。こうした動きもクリプト業界にとっては大きなプラスだ。 そもそもハイテク分野でのアメリカの主導権は後退している。半導体においても、GPU(画像処理装置)を作っているのは台湾のTSMC( TSM )。ブロックチェーン系のビジネスもアメリカ以外に逃げている。アメリカは、善か悪か分からなくても、まずは先端技術を自分の国で育ててきた。善悪を考えるのを後回しにするのがアメリカらしさだったが、ここ数年は早い段階でブレーキを掛けるケースが目立つようになった。トランプ政権下でそこがどう変わっていくかが見ものだと思う。 ーーイーロン・マスク氏は生成AI開発に慎重な意見を持っています。 松本:マスク氏がトランプ氏や共和党に寄付した総額は200ミリオンドル以上(約300億円)といわれている。発言の影響力も大きいので「マスク大統領、トランプ副大統領」と揶揄されているが、私は”たかが200ミリオンドルにすぎない”とみている。 スペースX、テスラ( TSLA )などの評価が軒並み上がったので、世界史に残るような賢い200ミリオンドルの使い方をしたと思う。しかし、たとえばジョージ・ソロス氏は民主党に対して巨額の献金をしているし、マスク氏だけが突出しているわけではない。トランプという人が、200ミリオンドル寄付してくれた人を、ずっと大切にするかといえばそれは別問題だろう。 2人の蜜月は続かず、どこかで仲違いするということはあり得るのではないか。しかし、そのことがトランプ政権を揺るがすようなことにはならないだろう。 ■地政学リスクが後退 ーートランプ政権下では世界の紛争解決が進むとの見方もあります。 松本:すでにそうなっている。中東におけるガザの停戦交渉はよい方向に進んでいる。シリアのアサド政権は崩壊して紛争は収まる方向だ。おそらくウクライナ戦争も終結に向かっていく。 大統領就任を前にして、すでに戦争や紛争が減り始めている点には注目してよいと思う。大きな視野でみると、人類は第一次大戦後、多国間の枠組みで物事を解決しようとしてきたが、そこに行き詰まりがあることは事実。トランプ政権はアメリカ一国で主導して物事を決めていこうとしている。多国間の枠組みが数多くの紛争を解決できていない以上、このやり方には一定の合理性がある。地政学リスクが後退することは世界経済にとって大きなプラスだ。 ーー銀行などの金融セクター以外に注目すべきセクターは? 松本:トランプ政権のキーワードは、ハイテクでの主導権奪取と規制緩和。となると、生成AIの活用もどんどん広がっていく。生成AIの活用によってコスト削減の恩恵を受けるセクターにも注目すべきだろう。 銀行はその最たるもの。事務作業を行うために非常に多くの従業員を抱えているが、大幅な削減が可能になる。通信セクターもよいと思います。例えばAT&T( T )やベライゾン・コミュニケーションズ( VZ )などは10万人を超える雇用を抱えているが、コールセンターなど多くの機能が生成AIによって代替されていく。効率化によるメリットが大きいセクターだ。 (東洋経済 記者) ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
山田 俊浩