大人気おにぎり店「ぼんご」の女将・右近由美子さん 新潟の“家出少女”が東京で27歳年上の店主と結ばれるまで
おにぎり店の店主と結婚。厨房に立つも恐怖で「1週間で胃に穴があきました」
「近所に友達ができたので、遊ぶお金もほしかったですし、食事はタダでもらえるパンの耳でしのいでいました」 当時、女性の右近さんが一人で入れる店は中華料理店くらいしかなかった。そのため食事はパンの耳かラーメンばかり。米どころ出身であったにもかかわらず、お米不足状態だったという。 「そんなとき友達の一人が『大塚においしいおにぎり屋さんがある』と誘ってくれたんです。 それがぼんご。青じそとしば漬けのおにぎりを1個ずつ、それとなすの糠漬けを食べたんです。 東京では炊きたてのごはんを食べたことがなかったから“こんなにおいしいものがあるのか”と感動して、ほとんど毎日のようにお店に通い始めたんです」 常連客となると、“店主のおじちゃん”が「よぉ、コーヒーでも飲んでいくか」「パチンコでとってきたあんみつ食べるか」と、何かと気にかけてくれるようになった。店主の祐(たすく)さんは27歳も年上で、右近さんの父と同じ年齢。父はコツコツ苦労を重ねてきたが、祐さんは要領がよく、戦後も進駐軍相手にバンドのドラマーとして活躍し、食べることに苦労したことがなかったという。 「生き方の違いもあったのか性格は真逆。男性といえば父のことしか知らなかったので、おじちゃんと出会い“世の中には、こんなやさしい男もいるんだ”と思ったんです」 祐さんは早くから右近さんを見初めていたようで、誕生石の指輪をプレゼントするなどアプローチしてきた。 「友達と『絶対におかしいよね』『あぶない、あぶない』と、ちょっと警戒していたんです。でも、おじちゃんは『ボク、君の人生の踏み台になってもいいよ』とまで言ってきて……」 祐さんの“捨て身”の求婚は、右近さんの心を動かしたが、壁となったのは厳格な父親だった。 「父は『二度と新潟に帰ってくるな』と。おにぎり屋という仕事への不安もあったんでしょうね。でも、母は上京してぼんごの納豆おにぎりを食べて、安心してくれました。母の説得があったのか、父も結婚を認めてくれたんです。父は上京したときは私に、『おにぎりを握れ』と言うようになり、必ずお土産として持ち帰りました」 両家の縁を結んだものがおにぎりだったのだ。だが、そのおにぎりで右近さんは大変な苦労をすることになる。