【GQ読書案内】職人と手仕事を考える──アルチザンにまつわる6冊
編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、月に一度、GQ読者におすすめの本を紹介。今月は「職人と手仕事を考える」がテーマ。 【写真を見る】アルチザンにまつわる6冊をチェック!
『GQ JAPAN』10月号の特集は「MODERN ARTISAN 世界を魅了するアルチザン・ファッション」です。アルチザンとは、職人や技工、職人的な芸術家を指す言葉。今月はファッションの枠を超えた「職人の手仕事」をテーマに、私が好きな本を紹介したいと思います。「職人」「手仕事」と一口にいえど、職域とその思想は本当に幅広いのだと、あらためて認識しました。
日本の「職人」の成立
網野善彦『日本中世の百姓と職農民』(平凡社) 職人とは誰を指すのだろう。今回の選書のお題をいただいてから、「作家(アーティスト)」「職人、工人(クラフツマン)」「クリエイター」「〇〇師」など、作り手に対するさまざまな呼び方の違いをあらためて考えた。辞書や本を比較するなかで、特にアーティストとは歴史における新規性や創造性、あるいは個人や団体の思想感情、社会に対する問題提起など、さまざまな意味での「表現」に重きを置く人たちを指す。また職人とは、特定の技術や材料を用い、とりわけ品質や精度にこだわりながら、機能性、実用性あふれる作品を生み出す人たちを指すのではないか、といったん考えた。 なかでも、特に読み直したのが、日本中世史研究者の網野善彦さんの著作たちだ。ちょうど今年は網野さんの没後20年にもあたる。一部の権力者の系統や興亡によって語られてきた「大文字」の日本史ではなく、その陰に常にあった民衆の職業や営みの多様性に光を当てて日本史を描きなおしたことで知られる。そのなかで「職人」という存在や言葉の成立についても、研究されている。 今の私たちの認識と同じく、近世以降の「職人」という言葉は、身につけた技術をもって物をつくる手工業者を指している。しかし、さかのぼってみると、その語義はかなり異なるという。鎌倉から室町時代までは、ほとんどが在庁官人や下級荘官をさす言葉だったし、近世初期までは、広義には手工業者のみならず芸能民、呪術者までをも含んでいたそうだ。そして彼らには、平民百姓が負担させられていた課役がなかったという。「職人」という存在を知ることは、社会構造を理解し直すことなのだと再確認した。