日本プロレス史を飾ったエースたちが通った道 ブーイングの洗礼をはね返せ 新日本プロレスの新世代を担う海野翔太
【柴田惣一のプロレス現在過去未来】
ブーイングは期待の裏返し。昭和、平成、令和と時代は移っても、これだけは変わらない。プロレス界の新時代を背負う男たちも避けては通れない。 【動画】棚橋弘至レスラー人生のゴールを決意 (2024年10月14日 両国国技館) 新日本プロレスの次代を担う海野翔太も、先輩たちと同じ洗礼を受けている。10・14東京・両国大会。IWGP世界ヘビー級王座を守り抜いたザック・セイバーJr.の元に、SANADA、鷹木信悟とともに「挑戦のノロシ」を上げた海野。他の二人には歓声が送られたのに、海野には激しい拒否反応が渦巻いた。 現在の海野に対するファンの思いがストレートに出たようだ。海野本人も棚橋弘至社長も「無反応よりも良い」と前向きに捉えているが、その通りである。 「どうでもいい選手にはブーイングもしない」と断言するファンもいる。すべての選手に声援やブーイングするわけではない。応援する選手には声援や拍手を送る。好みではない選手や、もどかしい、じれったい、だらしないと思う選手には叱咤激励の意味もこめてブーイングする。だが、そのどちらでもない場合は無反応、つまりはスルーだという。人間、無視されるのが一番辛い。 思えば後に「最強」と称せられたジャンボ鶴田も、当初は厳しい声が飛んだ。デビュー直後から、ポテンシャルの高さと非凡な対応能力を発揮していたのに「あのタイツは何だ」などと、いささか筋違いの批判を受けていた。 革命戦士・長州力も、吉田光雄時代には厳しいヤジが飛んでいた。当時はブーイングではなく言葉によるヤジだった。五輪出場という鳴り物入りで入団したものの「一本調子、期待外れだ」と批判された。長州力に改名後も続く不評に、一念発起して衝撃のかませ犬発言につながったのかも知れない。 武藤敬司も、スペース・ローン・ウルフの頃はヘルメットや、ムトウを意味する「610」のマークまでもが批判の的だった。 棚橋も「愛してま~す」と叫んでみたものの、はじめは冷笑ばかりだった。時の王者・棚橋にかみついたオカダ・カズチカもブーイングの嵐に巻き込まれた。 ノアのGHCヘビー級王者・清宮海斗も今ではファンの心を掴んでいるが、避難の声にさらされる時期もあった。全日本プロレスに新風を呼び込んだ安齊勇馬も、三冠王座を腰に巻いたのに「まだ早い。相応しくない」と散々だった。 「地位が人を作る」というが、徐々にベルト姿が似合ってくるもの。もちろん本人の努力次第だが、チャンピオンらしくなってくるものだ。 10・14両国大会では棚橋が2026年1・4東京ドーム大会での現役引退を表明。ノア、全日本と比べて新時代の到来が遅れ気味の新日本にとって、確固たるニューヒーローの登場に向けタイムリミットが示されたと言っていい。 ただでさえ、新日本は「外国人天国」と化している。IWGP世界ヘビー級王者・ザックを始め新日本のベルトホルダーには外国人選手の名前がズラリと並んでいる。 海野の大爆発を待ち望んでいるからこそ、ファンはブーイングせずにはいられないのだろう。海野の将来性を認めている証ではないだろうか。 日本プロレス史を飾る英雄たちも通った行程に、海野は片足を突っ込んでいる。無論、ブーイングを歓声に変えられないまま、エースになれなかった男たちもいる。全員が通り抜けられたわけではないが、海野なら乗り越えられる。棚橋も自分の若き頃を海野に見出しているようだ。 みんな悩んで大きくなった。順風満帆ではなくいばらの道を乗り越えた方が後々、感動を呼ぶ。10・27東京・後楽園ホール大会でも「転んでも、転んだ回数+1で起き上がってリングに立ち続ける」と言ってのけた。もがき苦しみながら成長する海野翔太の姿を見逃したら後悔する。(敬称略) <写真提供:新日本プロレス>
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