ChatGPTはビートルズの「エリナー・リグビー」を救えたのか?生成AIとの対話で孤独を癒すことに潜むリスク
■ 生成AIとの対話が社会的孤立を助長しかねない ChatGPTとの会話が、人間のコミュニケーション能力にどのような影響を及ぼすかについて研究した別の論文では、そうした影響の一つとして「社会的孤立」が進む懸念が指摘されている。ChatGPTが便利だからといって頼りすぎると、人と直接対話する機会が減少し、結果として社会的孤立が進む恐れがあるというのだ。 特にChatGPTを利用することで、感情的または社会的なニーズが一部満たされると、人々が他者との実際の交流を求めなくなる可能性があると同論文では主張されている。 生成AI技術がいまよりもさらに進化し、本物の人間と同等のコミュニケーション能力を持つようになれば、ChatGPTとだけ会話していても「適切なコミュニケーション能力」が衰えることはないだろう。 しかし実際には、前述のようにChatGPTはユーザーの問題行動をいさめたり軌道修正したりしてくれるわけではない。そのような反応をするように設計されたアプリケーションではないのだ。 逆にユーザーの「こう言って欲しい」というリクエストを忠実に実行して、問題行動を逆に促進するような会話を繰り広げてしまう可能性もある。そうした会話に満足し、ChatGPTだけにのめり込むようなことがあれば、さらに本当の人間とコミュニケーションする力が失われ、孤独感が悪化してしまいかねない。 いままさに孤独感を抱いている人にとって、すぐに聞きたい言葉をかけてくれるChatGPTのような生成AIは、一時的に問題を軽減する便利なツールとなるだろう。だが、長期的には、それは問題の根本的な解決をしてくれる専門家ではなく、逆効果になりかねない技術であることを認識しなければならない。 もしエリナー・リグビーがChatGPTと出会っていたとしても、ビートルズの曲の歌詞は変わらない──。残念ながら、現時点ではそれが結論のようだ。 【小林 啓倫】 経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。 システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。 Twitter: @akihito Facebook: http://www.facebook.com/akihito.kobayashi
小林 啓倫