「創業家だから社長」ではない、サントリーHD次期社長の変貌。酒文化の灯を消さない覚悟
「『やってみなはれ』と『利益三分主義』、この2つの創業精神を決して絶やすことなく、一層あふれるサントリーグループにしていきたい。この思いのもと、新浪新会長と二人三脚で力強く率いていきたいと思います」 【全画像をみる】「創業家だから社長」ではない、サントリーHD次期社長の変貌。酒文化の灯を消さない覚悟 2025年3月25日付でサントリーホールディングス(HD) 社長に就任することが決まった鳥井信宏氏は、12月12日の社長交代発表会見でそう抱負を語った。国内酒類事業を展開するサントリー社長の鳥井氏は、創業者・鳥井信治郎氏の曾孫に当たる。 2024年で創業125周年を迎えたサントリーにおいて、創業精神はどのように受け継がれてきたのか。 社長交代発表前の11月末、Business Insider Japanは鳥井氏に単独インタビューを行った。新浪剛史サントリーHD社長と2人で行った12日の会見の模様を交えながら、創業家としての矜持と展望について探る。
「陰徳あれば陽報あり」に宿る創業精神
鳥井氏がインタビューで繰り返し語っていた言葉がある。「陰徳」だ。 その言葉が最初に出てきたのは、新浪剛史サントリーHD社長が、まだローソンの社長だった東日本大震災時に「上を向いて歩こう」と「見上げてごらん夜の星を」のメッセージCMを見て、「正直悔しさを感じるほど見事だった」と言った話を伝えたときのことだ。 「それはやはり、創業者の口癖だった『陰徳あれば陽報あり』という言葉に通じると思うんです」(鳥井社長) 信治郎氏は「陰徳あれば陽報あり」という教訓を大切にし、生活困窮者たちへの診療院を運営したほか、匿名で奨学金を出すなど、さまざまな形で社会に還元することを惜しまなかった。 「陰の努力をしなさい。陰徳を積みなさい。そうすれば、運というものが転がり込んできます」。鳥井社長は、信治郎氏の残したその言葉が好きで、営業や生産の拠点を回る際や社内研修などの場で社員に頻繁に伝えているという。 12日の会見でも、鳥井社長は、信治郎氏には「日本に洋酒文化を広めたい、日本人の繊細な味覚に合う日本のウイスキーをつくりたいという、当時誰からも無謀と言われた挑戦を、やってみはれ精神で克服した猛烈な起業家」としての顔と同時に、「非常に信心深くて、社会奉仕への信念も大いに強い篤志家」としての顔があったと語った。 その後者の顔を最もよく表しているのが「陰徳」だ。 サントリーの代名詞とも言える「やってみなはれ」と、事業によって得た利益を事業に再投資するだけでなく、顧客と従業員、社会にも還元するという「利益三分主義」も、その根底にあるのは「陰徳」だという。