〈セキュリティー・クリアランスはなぜ、日本に必要か?〉産官学の専門家3人が語る、世界で生きる「必須免許」である理由
「防衛」の直結しない半導体の国産化
兼原 アメリカは「インフレ抑制法」や半導体の国内生産を支援する通称「CHIPS法」によって巨額の資金を民間に流し込む。そこには、必ず「国家安全保障」への貢献と明記されている。官民双方が支援する技術開発が、すべからく安全保障に結び付くのである。だから安全保障を目的とする研究開発の政府委託であれば、補助金とはいわれない。それが当たり前なのだ。 世界を席巻した〝日の丸半導体〟が弱体化した要因の一つに「日米半導体協定」がある。この協定を締結させられた1986年当時、日本政府や産業界には、アメリカ側が半導体を国家安全保障上の最重要技術分野に位置付けていることを知る人はほとんどおらず、経済戦争だとはしゃいで対決姿勢を見せた。日本がアメリカの〝虎の尾〟を踏んだのだ。半導体と安全保障を結び付けるという発想がなかったことが一番の問題だったのである。 日本でもようやく最先端半導体の国産化を目指す動きが出てきている。しかし、その使い道に「防衛」が直結していない。これから大量に装備されるであろう12式ミサイル(12式地対艦誘導弾)の改良版は、日本の反撃力の主力となる。その関連システムにRapidus(ラピダス)の半導体を使うという話が聞こえてこない。半導体の内製化だけが目的になっているのであれば残念だ。戦場で味方の自衛官を決して殺させてはいけないという使命感が感じられない。 アメリカのように戦場の所要と結び付いて初めて国家安全保障と経済が結び付くのだ。逆に、そこがつながらない限り「経済効果」や「ビジネス」などといった狭い世界での議論に終始してしまう。戦後80年近く切り離されてきた「水と油」のような関係にある「経済」と「防衛」の世界をつなぎ合わせることは簡単ではない。だが、今後いっそう努力しなければならないのである。
野川隆輝