〈セキュリティー・クリアランスはなぜ、日本に必要か?〉産官学の専門家3人が語る、世界で生きる「必須免許」である理由
「経済安全保障」は世界では不思議な概念
手塚 アメリカの審査は厳格だ。申請のための手続きは集中して取り組んでも2時間以上は要するし、調査を専門に行う人が約7000人いて、まさに徹底的に調査される。当然だが、嘘をつけば厳罰が下る。リストに自己申告でチェックをつけていくだけの日本とはレベルが違う。それくらいこのSCを重視しているのだ。 それから、海外の人と議論すると、「経済安全保障」という概念を不思議に感じる人が多い。なぜなら、彼らにとっては「国家安全保障」が最上位の概念であり、その中に「経済」「エネルギー」「食料」などがサブ項目として位置付けられているからだ。 一方、日本では「国家安全保障」という言葉からすぐに「軍事」が連想されて大騒ぎになるため、知恵を絞って「経済安全保障」という言葉をつくったと私は理解しているが、海外にはそうした考え方自体が存在せず、その意味では確かに〝異様な国〟である。
小谷 語順からも分かるとおり、日本ではなぜか「経済」に重きが置かれていて、安全保障が経済の中の一つの分野だと勘違いされていると感じる。 アメリカでこの議論の発端となったのは、2016年に発刊された『War by Other Means:Geoeconomics and Statecraft』という書籍で、戦争や軍事力を起点にして話が広がっていく内容なのだが、日本に持ち込まれる時には「Economic Statecraft」がフォーカスされ、結局、「経済安全保障」という訳語が定着した。これは「United Nations(連合国)」を「国際連合」と訳したのと同じくらいおかしな話だ。 アメリカをはじめとする西側諸国は、いくら経済的な損失が出ようとも根幹は国家安全保障である。中国ですら共産党支配を堅持することが根幹にあるからこそ、国家安全保障が最優先事項だ。日本は経済が最も重要な領域なので、経済を犠牲にしてでも守る「根幹」の部分がないといえる。