アマゾン、セブンも巻き込み激突 各陣営の動きから見える「ポイント経済圏」覇権争いの深層
■ なぜ、王者Tポイントはブランド消滅に追い込まれたのか ──2024年4月にはTポイントの名称が消え、ブランドの消滅に追い込まれました。Tポイントが王者陥落に至った背景には、どのような要因がありますか。 名古屋 いくつかの要因が考えられます。最も大きな要因は、楽天ポイントやdポイントのような「経済圏の構築」が思うように進まなかったことです。経済圏の強さは「ポイント発行額」と「経済圏が有するデータ」の2点から測れます。 楽天のポイント発行額は年間7000億円弱に上り、ドコモは3000億円半ばとされており、対するTポイントは年間1000億円を下回っていたようです。データの観点では楽天が圧倒的に勝っており、楽天市場で取得した購買データや、楽天カードや楽天ペイといった金融事業で取得した個人情報・決済データなど、多種多様なデータから構成される巨大なデータベースを有しています。 対するTポイントは、レンタルビデオ店のTSUTAYAで取り扱いを開始し、実店舗を基点に経済圏を広げてきました。ECをはじめとするオンラインビジネスが普及する中、ヤフーとの提携も進めましたが、2022年にソフトバンクやヤフーとの関係が解消したことで、経済圏の力の源泉を失うに至っています。結果として、リアルの世界でも経済圏を築くことができた楽天、オンラインの世界で足場を作ることができなかったTポイント、この両者の差はとても大きなものになりました。 加えて、「人」という要因も見逃すことはできません。元CCC副社長の笠原和彦氏をはじめとして、Tポイント立ち上げメンバーの多くが楽天へ移籍しています。Tポイントはブランド力こそあったものの、主力メンバーが離脱したことで競争力が弱まっていったと考えられます。
■ ポイント経済圏「第三幕」では五大陣営の攻防が激化 ──著書では、ポイント経済圏の現状について「楽天ポイントとdポイントの2強」と述べていますが、各社の攻防について、どのような点に注目していますか。 名古屋 著書では、ポイント経済圏を巡る20年間を「第一幕」と「第二幕」に分けて解説しています。第一幕はTポイントが誕生し、ポイント経済圏がつくられたところまでを指しています。そして第二幕では、楽天やドコモといった後発勢力が、王者Tポイントを陥落させ、ポイント経済圏を発展させたところを指します。 そして、今はその次の「第三幕」に入ったところです。第三幕では、「楽天ポイント」「dポイント」「Ponta」「Vポイント」「PayPayポイント」の5大陣営が熾烈(しれつ)な争いを展開することは間違いないと思います。 例えば、ドコモは2024年、アマゾンジャパンとポイント事業での提携を開始しました。dポイントがたまるのは、アマゾンのサイトでの「1回の注文が5000円以上の場合のみ」と限定的ですが、長らく弱点となってきたEC分野の補強という意味合いがあります。 そして、この提携の背景を深掘りすると、そこにはモバイル事業で競合するドコモと楽天の関係性が見えてきます。ドコモは楽天と手を組むことができないからこそ、楽天市場とライバル関係にあるアマゾンとの関係強化に乗り出した、と見ることができます。 この他にも、2024年10月、セブン-イレブンがVポイントとの提携を強化する動きを見せています。セブン‐イレブン店舗でVポイントの最大10%還元キャンペーンが始まり、戦局の変化を予感させる動きです。 この背景には、セブン-イレブンはこれまでどこの経済圏にも属さず、独自の思想を持ち、自前でプラットフォームをつくり上げてきたことが関係しています。業界関係者から見ると、2社の提携強化には大きな驚きがあったはずです。 第三幕では、このような提携の動きが次々に出てくると見ています。三菱商事とKDDIがローソンを共同経営することになったことで、Pontaにも新たな動きが出てくると考えられ一気に勢力図が変わる可能性もあります。将来的には、5つのポイントサービスが統廃合する可能性もあり、今後も各社の動きから目が離せません。
三上 佳大