「社員寮」に再び脚光、人材確保・離職防止狙い…サウナ付き大浴場やカフェ併設も
社員寮を充実させる動きが大手企業で広がっている。2000年代半ば以降に廃止の動きが目立っていたが、近年の採用難や住宅価格の高止まりを背景に再評価が進む。サウナ付きの大浴場やジムを備えるなど、住む人が交流しやすい工夫を凝らす。人材確保とともに、若者の離職防止につなげる狙いもあるようだ。 【一覧表】各企業の「充実した」社員寮
「社員寮で仲良くなった他部署の先輩が相談に乗ってくれて心強かった。生活費も節約できる」。伊藤忠商事で入社3年目の池松敦さん(24)は話す。
同社は4か所あった社員寮を統合し、横浜市に18年3月、新たな男性寮を開設した。大浴場や食堂、サウナを完備し約230人が入居。25年には女性寮も開設する方針だ。
三菱UFJ銀行は25年秋にも、同社最大級の社員寮「市ヶ谷寮」(東京都新宿区)の建て替えを始める。従来の寮は風呂やトイレの共用が一般的だったが、新しい寮ではプライバシーを重視する若者に配慮し、各部屋に確保する。
一方で住む人の交流が生まれるよう、スポーツ観戦できる大型モニターやカフェを備えた洗濯コーナー、テレワークブースを設ける予定だ。
インフレで都心物件の賃料が上昇する中、家賃は周辺相場の「半分程度」(関係者)を想定する。同社ファシリティ戦略室の菊地亮太次長は「寮は会社より長い時間を過ごす場所。採用力向上には欠かせない投資だ」と狙いを語る。
人事院の調査では、社宅のある企業の割合は22年度に41・6%。福利厚生費の抑制で04年度の63・9%から削減が進んできたが、近年は横ばいが続き、質の向上を図る動きが目立つ。
就職情報サービス大手マイナビが実施したアンケートによると、就活生が企業に求める勤務制度・福利厚生で「社員寮・社宅」は4割弱に上り、「時短勤務」「育児支援」を上回る。
製造業では、地方の生産拠点近くに寮を建てる動きが見られる。電子部品大手のTDKは23年、国内最大規模の工場がある秋田県由利本荘市に寮を開設。共用棟内の食堂では地元産の野菜を使った料理が提供される。共用棟は地域にも開かれ、地元の中学校と共同でイベントを開催する。