核のごみ処分地選定:自治体の手上げ方式は「限界」の声。国内初、北海道で文献調査の報告書
一方で、調査に反対する人たちの動きもある。町議の越前谷由樹さんは「調査中止」を掲げて2021年の町長選に出馬。片岡町長に敗れたものの「核のごみの処分場ができれば故郷の将来に禍根を残し、これまでの街づくりを進められなくなる。調査開始に踏み切る前に町民への十分な説明と合意が必要だった」と指摘する。 町内の複数の住民は、意見の相違による対立を避けようとする意識が強くなり、「気軽に語り合えない状態になってしまった」と口にした。越前谷さんは「核のごみの問題を考えることは大切なことだが、町内にしこりが生じたのは確か」と語る。 核のごみは、危険性が無くなるまで10万年かかるとされ、日本だけでなく、どの国も処分地を巡り長期間の議論を続けている。日本の選定プロセスは、国や電力会社が前面に出ず、自治体に判断の多くを任せているのが特徴。交付金を配り、人口が少ない小規模自治体の手挙げを誘っている。できるだけ地域の意志を大事にするという前提だが、専門家の一人は「原発建設の際に各地で激しい反対運動があったことも踏まえ、国への反発のリスクを避ける目的もあるだろう」とみる。
「国は腰が引けている」
「一石を投じる」とした寿都、神恵内の後、他の地域で調査を決めたのは原発が立地する佐賀県玄海町だけ。候補地を集めるため、経産省とNUMOは全国100以上の地域で説明の場を開くなどしてきたが、効果は見えていない。 寿都、神恵内両町村の調査に入る前の2007年には高知県東洋町が応募したが、町民の反対で撤回。長崎県対馬市は昨年、議会から調査開始の請願があったが、市長が拒否した。住民の一定の反発が起きる可能性はどの自治体でも想定され、調査開始の大きな壁になっている。 片岡町長は、4年間の経験を踏まえ、現行制度の不備を訴える。「私は調査に手を挙げた町長として、責任を取らざるを得ない。だが、国は『国が解決に向けて前面に出る』と言いながら、実際には腰が引けている。一方、地方自治体の首長は選挙を抱えており、調査に手を挙げるのは難しい。このままでは核のごみの処分地を探していく取り組みは進まないのではないか。もっと国が前に出て、全国的な議論を促す必要がある」。具体的には、国が主導して全国10カ所程度の適地を選び、その中で希望する自治体が調査の是非を判断する新たな仕組みが必要だとする。 文献調査受け入れによる各20億円の交付金について、寿都町は看護師住宅の建設や施設維持、神恵内村は漁港施設の整備などに使った。片岡町長は「ありがたく使わせてもらうが、町が受けた批判を思うと20億円程度では割に合わない」とも語る。