日産ノート e-POWER「乗りすてサービス」、なぜ無料? マーケ責任者に狙いを聞いた
日産自動車は11月1日~6日、日産ノート e-POWERで半径3.3キロ以内の行きたい場所まで自由に乗れる「日産ノート e-POWER 乗りステーション」を渋谷・代々木上原エリアでオープンする。 【写真を見る】発表会に登壇した有村架純さん このサービスではノート e-POWERで、街乗り5分の距離に当たる半径3.3キロ以内の好きな場所までドライブできる新しい移動体験を完全無料で提供するという。乗りステーションは東京都の渋谷と、代々木上原の2カ所に設置した。都心でも公共交通機関が発達していない乗り換えや路線のアクセスが不便なエリアに着目したという。 利用に予約は要らない。直接ステーションへ行き、行き先をスタッフに伝える。そのまま助手席にはスタッフが同乗して目的地まで運転。到着後にはアンケートに回答し利用終了となる。車はスタッフがステーションまで返却する形だ。 ノート e-POWERは、100%モーター駆動という第2世代「e-POWER」を搭載したコンパクトカーで、2023年12月のマイナーチェンジ発表以降も売り上げを伸ばしている。ステーション設置やスタッフの人件費を割いてまで無料の乗りすてサービスを提供する狙いは何か。日産の村田直哉チーフ マーケティング マネージャーに聞いた。
サービスの収益化は予定なし それでも実施する理由は……?
――ズバリ乗りステーションの狙いは? 完全無料ということなので、このサービス自体がビジネスになるわけではありませんね。 そうですね。これでビジネスをするというよりは、 特に当社の車にまだ乗ったことがない若いお客さまに乗り心地を知ってもらうことが狙いです。まずは車を運転する楽しさや快適さを体感いただき、それが世の中で話題になっていけばと考えています。やはり実際に乗っていただいた方の声には説得力があります。そうしたお客さまの生の声を広く伝えて、よりノートの魅力を拡散させることを考えています。 最初にお金のことを考えてしまうと、ハードルが高くなってしまいますね。それでは「気軽に体験してほしい」というわれわれの思いに少しブレーキがかかるかなと思いました。それで無料の企画にした経緯があります。 ――次世代の潜在顧客層の掘り起こしのような位置付けですね。日産としても若者の車離れには危機感を持っている状況ですか? ノートの30~40代の方の販売構成比は大体25%ほどです。 こうした人からも本当に「運転が楽しい」「快適」という声をいただいています。一方、若い方々の中には潜在顧客もいると思いますが、まだまだ魅力を伝えられていないと考えています。若者の車離れといわれていますが、実際に車に乗って気軽に体験いただくと、多くの人がいいところに気づいてくださいます。そうした方にどんどん車の良さを、あらためて感じてほしいですね。 ――ノート e-POWERの魅力はどこにあるのですか? 「走りの楽しさを突き詰めたコンパクトカー」をコンセプトにしていて、大きな売りは第2世代e-POWERを搭載しているところです。これはエンジンではなくてモーターで車が走ります。エンジンはモーターに電気を蓄えるサポート的な役割をしています。この「モーターで走るところ」が、車の運転の革命ではないかと、開発とよく話をしていました。 モーターで走るので本当に静かですし、スムーズに加速します。まるで運転が上手になったかのように快適に運転できると思います。ノートは狭いところでも軽快に運転でき、先進的なコンパクトカーだと評価されています。 ――今回はスタッフが同乗して3.3キロ以内であれば、どこでも乗りすてできます。試乗の「どこでも行けるバージョン」という感じですね。 そうですね。試乗というと、若い人にとってはハードルが高くなりがちです。「ここに行きたいな」と思ったときに車に乗り、目的地に着いたらそのまま車を置いていけるので、返すところに戻る煩わしさもありません。まさに移動するついでに車を楽しむことを実現した感じです。 ――最近はドコモバイクシェアやハローサイクリングなどシェアサイクルが活況を呈していますが、この動きをどう見ていますか。手軽に、という点では似ていると思いますが。 都心ではいろいろな移動手段が出てきていますね。やはり多くの人々が、バスや電車だけでなく「ちょっと移動したいときに、いい交通手段がなかった」と考えているのかなと思っています。ただ、車もそういった移動手段として使っていただけると思います。実際に車に乗ると、楽しさ、快適さを味わえます。そうした潜在的なニーズのあるのが分かっている中、今回はお客さまに車という選択肢を提示したいと考えています。 ――カーシェア「NISSAN e-シェアモビ」も手掛けていますが、今回の取り組みとの違いは? シェアサイクルは競合ですか? カーシェアリングは、本当に車を使わないと目的地まで行けない場面での利用が多いと思います。だからこそ車を借りて、元の場所にまた返すという工程がありますね。自転車も「ここにピンポイントで行きたい」といった形で使うと思います。一方、今回の取り組みは、どちらかというと、気軽に乗っていただいて、車の良さを知ってもらうことを大きな目的にしています。そういった観点で、今回の取り組みとは目的が違うと思っています。 ――12月には大阪でも乗りステーションをオープンするとのことですが、ビジネス化するのではなくマーケティングとして実施する形ですね? ノートの魅力を伝えるマーケティングの一環と考えています。当社の調査で、都市圏には「ちょっと移動したいんだけど電車の乗り継ぎだと大変」といった箇所がたくさんあることが分かっています。 ―― 日産のマーケティングの課題をどう捉えていますか? e-POWERの良さや 、先進的な技術で評価いただいているプロパイロットの魅力をまだまだ伝えきれていないことです。プロパイロットは、高速道路や自動車専用道路を運転者が設定した車速を上限に、先行車と車速に応じた車間距離を保ちながら、車線中央付近を走行するための運転操作を支援するシステムです。「セレナ」では、高速道路でのハンズオフ運転ができる機能のある「プロパイロット2.0」を搭載しています。 われわれも広告を始めとしたいろいろな手段を使って良さを伝えてきました。ですが、まだまだ改善点があり、魅力をきちんと伝えきれていないと感じています。お客さまに、実際に体感いただくと「すごくいい」と言っていただくことが多く、そこが当社の武器だと思います。「乗れば分かる楽しさ」をより多くのお客さまに分かりやすく伝えて、もっと車に乗ってもらう。ここがマーケターとして注力したいと思っているところです。 (アイティメディア 今野大一)
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