「10万人に1人の難病」大解明、「認知症予防」にも関係する構造を九大 藤木氏に聞いた
「一生をかけて解明」、決意を固めて日本で研究
──そして新しいメカニズムとして「ペルオキシソーム生合成機構」を提唱されました。核の中にあるDNAの遺伝情報がRNAに転写されて、それがリボソームで翻訳されることでタンパク質が生合成され、ペルオキシソームまで運ばれ、それがペルオキシソームの膜や中身になる。そして、それが分裂して成長する。 藤木氏:提唱した基本的な仕組みはそのとおりです。その後、このペルオキシソームが欠損する病気の存在を知り、ペルオキシソームの形成・構築の仕組みとペルオキシソーム欠損症が引き起こされるメカニズムの2つを、一生をかけてでも解明しようと決意し帰国しました。 ──日本に帰国されてからの研究について、お聞かせください。 藤木氏:まず、研究対象を哺乳類(ハムスター)の細胞にしました。当時、欧米では扱いやすく研究のツールもそろっている酵母を使う研究者が多かったのですが、ペルオキシソームの形成・構築、ペルオキシソーム欠損症が引き起こされる仕組みの両方を調べるには、哺乳類の細胞が有利と考えました。 そして、ペルオキシソーム形成遺伝子を見つけるために、「順行遺伝学的手法(フォワードジェネティクス)」を用いました。これは、まずペルオキシソームが欠損している突然変異細胞を、DNA変異剤を用いて人工的に樹立します。次いで、約2万種と言われるcDNA(遺伝子)を含むライブラリーから、たとえば200種ずつ100プールに小分けしたものをそれぞれのプール1つひとつを変異細胞に導入して、狙った形質、この場合はペルオキシソームの形成を回復させる、すなわち正常(野生)型に復帰したものを顕微鏡化で探し当てる手法です。 さらに陽性と判明した200種を小プールに小分けし、そこから相補させるcDNA(遺伝子)を絞り込み、ペルオキシソーム形成因子の単離、いわゆる相補遺伝子のクローニングへの成功です。生化学的にも検証、確認します。 当時、この方法は微生物、酵母系では行われていましたが、哺乳動物では、解析のために遺伝子を細胞に導入するための効率の良いツール(ベクター)がないという理由で、極めて困難でした。私は論文公表されている適切なベクターを探し出し、この問題を解決することで、ペルオキシソーム形成に必須であるペルオキシン遺伝子(PEX2)のクローニングに成功しました。 また、ペルオキシソーム欠損症を劣性遺伝病(父親と母親の両方から受け継いだ遺伝子に異常がある場合に発症する疾患)として究明しました(下の図)。 さらに個体レベルの研究、どのようにしてペルオキシソーム欠損症が発症するのかを明らかにすべく取り組みも行いました。具体的には、病因となる多くの遺伝子が分かったので、これらの遺伝子を働かなくするたとえばPEX14ノックアウトマウスを作り、小脳細胞内シグナル伝達障害で神経プルキンエ細胞の樹状突起が伸びずに異形化するというメカニズムにより、本症の発症に至ることを解明しました(下の図)。 ──一生をかける覚悟で臨まれた研究が、見事に成果を出したわけですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。 本連載特設ページはこちら:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html
協力:公益財団法人 大隅基礎科学創成財団