役所広司と内野聖陽の演技合戦がスゴい…映画『八犬伝』評価&考察レビュー。観客の気持ちを代弁する葛飾北斎のセリフとは?
虚実を超えるVFX技術と充実のサブキャスト
本作の見どころのひとつが、全編にわたって駆使されている VFX(ビジュアル・エフェクツ)。もともとVFXの名手とも言われている曽利文彦監督によって、フィクションである虚の世界での爆発や敵の妖術はもちろん、馬琴たちの生きる実の世界で歌舞伎が披露される一幕など、思いがけない場面でVFXが取り入れられている。 そして、そんなVFXによって再現された『八犬伝』の虚の世界を駆け巡ったのが、今をときめく若手俳優たちが扮する八犬士たちだ。 渡邊圭祐、板垣李光人、水上恒司など、今や多くの人気映像作品に出演している俳優たちに、物語のカギを握る存在である浜路役の河合優美も加わり、まさに実力派の若手俳優たちが総集結している。 彼らが戦いのさなかで魅せるアクションシーンはもちろん、板垣李光人が演じた犬坂毛野が白拍子に扮して舞を踊る姿や、佳久創が演じた犬田小文吾が相撲をとる場面など、短いカットのなかで緻密に表現された演技も見逃せない。 また、ここまでに言及したキャスト以外にも、馬琴の妻を演じた寺島しのぶや『八犬伝』の完成にあたって重要な存在となるお路を演じた黒木華など、脇を固めるキャスト陣の好演が光っていた。
見応えがあった馬琴と鶴屋南北との問答
そして、この映画で最も特筆すべきなのが、馬琴と北斎が歌舞伎の芝居を観おえたあとに、舞台の下にある奈落の底を案内された際、狂言作者である鶴屋南北と問答をする場面だ。 南北は当日の歌舞伎座で『忠臣蔵』と『東海道四谷怪談』という、史実に伝わる勧善懲悪劇と浮世離れした怪談話を織り交ぜて披露しており、馬琴はその真意を南北に尋ねる。すると、南北は奈落で向かい合った馬琴に対して、史実として残る『忠臣蔵』こそ虚であり、誰もが虚構だと信じる『東海道四谷怪談』が実である可能性を提示する。 身分による格差や近しい者との別れ。理不尽なできごとがたびたび起こる現実だからこそ、虚の物語に正義を重んじる馬琴からすれば、南北の考えは全く相入れないものだった。 実際、舞台の上から奈落を覗き込みながら馬琴と話す逆さまの南北の姿は、まさに対極にある思想をもつ馬琴と南北の立場をイメージしてのものだろう。どちらの言い分にも道理があり、両者ともに目の前の相手が作り上げた作品に対する敬意があるからこそ、お互いに曲げられない信念を真っ向からぶつけ合う。 不敵に笑う南北をのらりくらりと演じきった立川談春と、激情に駆られながらも自らの信念を貫き相対した馬琴をとらえた役所広司、双方の見事なまでの演技が際立ったワンシーンだった。