役所広司と内野聖陽の演技合戦がスゴい…映画『八犬伝』評価&考察レビュー。観客の気持ちを代弁する葛飾北斎のセリフとは?
馬琴が虚の世界に込めた想い
『八犬伝』のストーリーが進むに従って、馬琴と北斎はともに歳をとっていく。しかし、根本的な価値観は変わらない。 「正しいものが勝ち、悪は罰せられる。そういう世界を描く目的で戯作を書いているんだ」 一貫して勧善懲悪を描く馬琴のセリフに対して「この世はそう上手くいくかね?」と疑問を投げかける北斎に、すかさず「いかんから物語として書くんだ」と返す。 苦しい現実を乗り越えるために、そして同じように辛い日々を送る人々のために、失明して文字を書けなくってもなお、完成まで漕ぎつけた『南総里見八犬伝』。 理想と現実の狭間で揺れうごく現代の人々にとっても、馬琴の執念とも呼ぶべき願いが宿る『八犬伝』の世界は、空想の物語が現実にもたらす希望の意義を投げかけてくれるはずだ。 【著者プロフィール:ばやし】 ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
ばやし